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【漫画】ザ・ファブル(18) 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

プロやからな――

情報

作者:南勝久

試し読み:ザ・ファブル (18)

ざっくりあらすじ

佐藤明への切り札として、ミサキをさらうことを決めた山岡は、新たにおもちゃとして部下に入れたスズミシに命令する。殺されたくない一心で協力するスズムシだったが――。

感想などなど

ヨウコは山岡が自分の両親を殺したのではと疑っており、彼を呼び出し問い詰めた。対する山岡は、焦るのでもなく畏怖するのでもなく、普通に「おまえの両親は焼死する前に先に俺が殺っておいた」と答えた。

山岡にとって、ヨウコに恨まれることは願ったり叶ったり。これからヨウコがアジトに乗り込んできてからのシナリオが、すでにできあがっているのだろう。その証拠に、この第十八巻においてヨウコが乗り込んでくるのを楽しみに待っている様子が確認できる。

ただヨウコでは物足りない。彼はあくまで、ボスの最高傑作・佐藤明と戦いたい。

ヨウコが佐藤明に助けを求めるとは考えにくい。それに追い詰められれば自害するように教育されている彼女をおびき寄せることができても、佐藤明と戦うことは叶わないかもしれない。

そのための保険が、彼が妙に大切にしているヒロイン・ミサキをさらうことだった。普通にバイトして金貯めて、店を出したいだけの苦労人なのに、このような因縁とも呼ぶべきではない騒動に巻き込まれるのは、どうにもいたたまれない。

その誘拐計画を実行するように命令されたのが、新たに仲間(?)に加わったスズムシという屑である。ヤリサーの部長として好き放題やってきた彼に同情しないが、いつ殺されてもおかしくない極限状態で垂らされてきた「言われた通りすれば助かるかもしれない」という糸に、迷いなくすがる彼の気持ちは理解しないでもない。

ただ彼の実行した計画は、なんとも言えない方向へと物語を転がしていく。

 

佐藤明は物語の渦中にして、山岡の最終目標でありながら、物語にはあまり絡んでこなかった。しかし、この第十八巻からは急速に絡んでくることになる。

まずヨウコの家に仕掛けられた監視カメラ映像を確認できるよう、クロに話を取り付け、山岡とヨウコが話をしている様子を確認した。カメラ映像に音声はないのだが、読唇術によって会話の内容を把握。山岡がヨウコの両親を殺したことを知る。

だからといって何か行動を開始する訳ではないが――。

佐藤明は帰宅途中に偶然にも――本当はミサキと明を一緒に帰らせてあげようという社長の粋な計らいによるものだが――ミサキが拉致される現場に遭遇する。まだそこでは動かない明。弱っちい若者の振りをして一緒に拉致されることに。

この弱い演技も板に付いてきたものだなぁ……これも最高傑作といわれるゆえんかぁ……などと適当なことを思っていたらあっという間に、佐藤明と山岡のご対面である。ほら、お前が会いたがっていた佐藤明だぞ! ……という読者の心の叫びは届かない。

山岡は弱っちい演技をしている佐藤明を、ボスの最高傑作と認識できなかった。

こうしてミサキと一緒に監禁された最強の殺し屋。そこに飛び込んでくるヨウコ。

こうして舞台は整った。

 

ここからの展開はファブルを読んできた者ならば、ずっと待ち焦がれていた展開なのではないだろうか。山岡ではないが、やっとファブルの本気が見られるということへの期待が、最高の形で叶えられる。

彼が最高傑作と呼ばれるゆえんが、その実力が同門同士という最高の相手で発揮される。

特に語りたいのは、山岡が佐藤明の正体を知った時。先ほども語った通り、佐藤明はたまたまミサキの近くに居て、目撃者だからという理由で拉致された一般人――という風に山岡もユーカリも認識していた。

それが実は佐藤明だった――そのネタばらしの仕方が上手い。読者はそのネタを知った上で見ることになるのだが、それにしたって画的な見せ方によって読者も一緒になって盛り上がる。

山岡視点だととんでもなく怖いだろうが――あぁ、そっか山岡は恐怖心がないんだっけか。残念な男である。この展開を楽しめないなんて。

少し山岡に同情しても良いかもしれない。

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