工大生のメモ帳

読書感想その他もろもろ

【漫画】ザ・ファブル(20) 感想

【前:第十九巻】【第一巻】【次:第二十一巻】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

プロやからな――

情報

作者:南勝久

試し読み:ザ・ファブル (20)

ざっくりあらすじ

佐藤の銃弾を受けながら逃走した山岡。真黒組の追跡もありながら、砂川、水野と順番に手をかけていく。一方、ミサキや社長を守りながら、二郎や山岡を探す佐藤達。そんな拮抗した状況が大きく動き出す。

感想などなど

砂川が山岡に殺された。最後に「オレ……の……」と言い残して。

砂川は一体何を言いたかったのか。HDDでも消して欲しかったなんてことはないと思うが、真相は闇に消えた。そのままの足で山岡はコスプレ変態・水野のもとへと向かい、第二十巻では彼とともに行動することとなる。

水野も砂川についたことで組に追われる身となった。コスプレ変態ではあるが裏社会の人間であることに変わりはない。砂川が山岡に殺されたことを察し、警戒しつつ隠し持った銃を向ける程度のことはしてくれる。

ただそれよりも一枚も二枚も上手で、狂ったサイコパスである彼は超えられなかった。

水野もそれなりの最後の言葉を残して死んでいく。読者としては「いつ死ぬんだろう?」というドキドキを抱えつつ読み進めることになるのだが、そんな意表を完全に突くような突然の死が待っている。ちょっとエンタメ的に「オシャレ」と思ってしまったブログ主は、完全にサイコパスかもしれない。

そんな血なまぐさい事件の裏では、アザミはオクトパスで住み込みの仕事をしつつ社長の警護。ユーカリはヨウコの家で住み、一時的に一緒に住むことにしたミサキとヨウコの二人を警護。ミサキの仕事の送り迎えはアキラが担当という体制で、山岡を迎え撃てるように待機。

一方、クロとマツ、スズムシの三人は、組長を殺した犯人・二郎を探して奔走していた。といっても二郎もプロであり、今回の仕事を皮切りに引退を考えていたこともあって、行方は掴めず。二週間という時間制限だけが刻一刻と迫っていた。

山岡は好き勝手に殺しまわっている中、迎え撃つ佐藤達は打つ手なし。いつ来るかもわからない山岡の攻撃に注意力を払っているだけの時間が続いていく。

 

第二十巻の前半部はそんな緊張した日常が描かれ、後半は山岡の手がかりを発見してからの戦いが描かれていく。後半に関しては語りすぎるとネタバレになるので主に前半部について語りたい。

特に何が語りたいかといえば、普通に溶け込んでいくアザミという殺し屋の存在である。

第十九巻にて、アキラの知り合いとして住み込みの仕事をしながら護衛任務を担うことになったアザミ。株式会社オクトパスの社員として、社長の身の回りの世話――トイレ掃除に風呂掃除といった雑務をこなす様子が描かれる。

彼の抱えているあまりに暗すぎる過去(設定)に基づき、過去の話に触れられそうになたびに号泣する殺し屋というのは、事実を知っている者からすればなかなかにシュールだ。ただ、その演技をそつなくこなす様は、さすがプロと言えるかもしれない。

そんな事実を知っている唯一の一般人、ミサキもアザミやアキラのことを見ながら色々なことを考え、そして気づく。かつて自分を助けてくれた覆面の男は、アキラだったのでは……と。

彼女は今も、これまでも守られていたということを知ったわけだ。だからこそ、殺し殺される裏社会の存在を知りながら、受け入れて日常に戻っていくことができたのかもしれない。

 

この第二十巻の盛り上がりは水野が山岡に殺されてから――山岡に対して攻勢を仕掛けてからの緊張感は、これまでのものとは比べ物にならない。ゲーム感覚で、自分が映画の主人公にでもなったかのように振る舞い、闇に紛れて現れる。

アキラが山岡に姿を晒すシーンが個人的に気に入っているが、この第二十巻における山岡の登場シーンも、シュールさと緊張感を両立させたものに仕上がっている。それに誰が死んでもおかしくないというのも展開としては面白い。

いよいよクライマックスも近い。緊張感のある巻であった。

【前:第十九巻】【第一巻】【次:第二十一巻】
作品リスト