※ネタバレをしないように書いています。
オグリキャップの物語
情報
作者:久住太陽
試し読み:ウマ娘 シンデレラグレイ 9
ざっくりあらすじ
オグリキャップとタマモクロスの戦いに沸く中、大井レース場に現れたウマ娘・イナリワンが、中央に向けてレースに挑んでいた。第三章 永世三強篇、開幕――。
感想などなど
第八巻。有馬記念でのオグリキャップとタマモクロスの戦いは圧巻であった。ゾーンに入ったオグリキャップは、化物という二つ名に似つかわしい強さだった。最後に勝ったのはオグリキャップで、ウィニングライブの後、オグリキャップが言葉が、有馬記念を締めくくるに相応しいと思う。
「私一人ではここまで来れなかった 私を支えてくれた仲間達 私と競ってくれた宿敵達 そして みんなが背を押してくれたから ここまで来れた 走る理由を見つけられた 私を応援してくれた全ての人達のおかげだ」
「ありがとう」
この後、有馬記念を戦った彼女達は日常に戻っていく。12月になった町並みは、クリスマス一色に染まっている。サンタコスをしたウマ娘がいて、美味しい料理が一瞬で平らげられていく。
レースに対する後悔を抱くウマ娘、次への反省をするウマ娘。それぞれの胸中は十人十色だ。それはレースを見ていた人達も同じで、未来に向けて思考を巡らす。この第九巻から始まるのは『永世三強篇』。
イナリワンの大井競馬場でのレース模様から始まっていく。彼女もまた、オグリキャップと同じように地方から中央へと意気込むウマ娘であった。
イナリワンは祭りの屋台で配られてそうな狐のお面を頭に乗せた犬歯がチャーミングな勝ち気なウマ娘である。「大井のイナリワンたぁあたいのことでい‼」という江戸っ子口調も似合っている。身長は139cmと小さめか。
レースにおける成績は良い。大井競馬場で開催される東京大賞典で勝てば中央に行けるという正念場において、負けん気の強さ故に乱されがちなペースをきっちり守り、勝つためのレースをして、ゾーンにまで手が届く領域に辿り着いた。
笠松から中央へ行き、化物と称されるオグリキャップ。その背中を追いかけるようにイナリワンも中央へと上がってきた。
オグリキャップというウマ娘は罪深いと思った。彼女の地方から中央へと上がって有馬記念を勝利したというストーリーは、まさしくシンデレラストーリーであり、地方ウマ娘達に希望を見せた。その希望にすがって中央に来て、心を折られたウマ娘がどれほどいたことか。
このイナリワンは一体どのようなレースを見せてくれるのか、楽しみにしておこう。
オグリキャップのこれからの活躍に期待してページを読み進めていると、有馬記念での走りによる怪我が判明した。つまりは当分の間は療養するためレースに出られない。悲しいが、温泉に浸かって溶けるオグリキャップ、飯を食って笑顔なオグリキャップ、時々ベルノライトという可愛いシーンを眺めることになって読者は幸せになる。
そんな幸せそうな姿しかり、ラーメンをわんこそばのように食べるオグリキャップを見るに、それほど問題はないように思える。ただレースで活躍するウマ娘達を見ていると、彼女の心で成長し続ける走りたいというウマ娘としての本能が、彼女を早い復帰へと駆り立てる。
そんな彼女を心配してくれるウマ娘仲間達がいて、ベルノライトや六平さんの計画により「選手生命にも関わりかねない怪我」を早々に治して復帰した。復帰戦も余裕の一着。あまりにあっさりと描かれすぎて、この程度は消化試合だったのだろうと化物の化物たる所以を改めて理解する。
そんな彼女の調子は突っ込み(?)においても冴え渡る。いや、無意識な煽りとでもいうべきか。特にイナリワンとオグリキャップのファーストコンタクトは最高だ。江戸っ子口調のイナリワンの台詞と状況に、これ以上ないくらいの突っ込みを見せてくれる。いや、ボケというべきなのか。
この二人の構図を見て、タマモクロスを思い出してしまった。オグリキャップのライバルは突っ込み気質なのが条件なのかもしれない。全体的に脚を貯めている感じがする第九巻であった。