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メイズプリズンの迷宮回帰 感想

【前:第二巻】【第一巻】【次:第四巻】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

生命と同等の価値があるもの

情報

作者:上遠野浩平

イラスト:斎藤岬

試し読み:メイズプリズンの迷宮回帰/ソウルドロップ虜囚録

ざっくりあらすじ

家出中の少女・西秋有香は、殺人で無期懲役の男・双季蓮生と監獄の外で出会う。そして詐欺で服役中の父が、計画していた犯罪を、彼と共に実行することとなる。

感想などなど

本ソウルドロップシリーズは、ただでさえブギーポップシリーズの空気感と似通っている。群像劇で描かれる物語、日常と非日常が地続きであるような世界観がその理由だろう。

そんな中、統和機構において超重要人物である寺月恭一郎の名前が出てきたり、MPLS能力と思しき概念が出てきたりと、巻数を増すごとにブギーポップ色が強くなってように思われた。その色の変化は、この第三巻でますます濃くなっている。

これまでのエピソードでは、「ペイパーカットがこれから何を盗むのか?」という謎を、読者も一緒に追いかけていくようなミステリ色の強い内容となっている。前巻で描かれた過去の殺人事件は、ただそれ一本だけでもミステリが書けそうなレベルに仕上がっていた。ペイパーカットはただの舞台装置のように、そこにいただけのような不思議な一作だった。

今回は少しばかり毛色が異なる。この第二巻の冒頭の時点で、ペイパーカットは既に ”何か” を盗み終えている。その残された残骸を追っていくような内容となっている。その ”何か” を読者も一緒に考えていくことで、登場人物達と同じように深みへと嵌まっていく。

そんなペイパーカットが盗みが起こした現場は、とある刑務所である。

刑務所というからには、中には罪を犯した人間が捕らえられており、彼らが逃げ出さないように看守が目を光らせている。脱獄は勿論、そこから何かを盗むことなど一般人にできる芸当ではない。だが、ペイパーカットからしてみれば容易い。

誰も彼を認識できず、皆が違う人間の顔を答える。彼と言って良いのかも怪しい。読者ですらその正体を認識できているのか怪しい。そんな不気味でありながら何処か心惹かれるペイパーカットが、刑務所に現れたらしいという痕跡を掴み、調査にやって来たのはツンデレ妹属性の御曹司・東澱奈緒瀬であった。

彼女の魅力(と属性)は巻数と比例して増えていくが、この第三巻でもペイパーカットとそれに関わる人間達の行動に振り回されていく”可愛さ”は顕在である。彼女の期待した通りに物語が動くことはなく、その反対のことが起こるとメタ的な読みをしていれば大半は当たるのではないだろうか。

そんな彼女が見つけたペイパーカットの痕跡というのは、刑務所から忽然として姿を消してしまった無期懲役の罪人・双季蓮生が関わってくる。この男がただ消えたのであれば、ただの脱獄ということになるが、どうにもそういうことではないようだ。ペイパーカットが現れるといつも語られる奇妙な目撃証言――みんながみんなチグハグな人物を目撃するという ”アレ” が、この刑務所でも発生して双季蓮生が消えたのである。

しかもこの男というのが、東澱家の当時の長を殺した殺人の罪で投獄中の身なのだから、つくづく東澱家とペイパーカットとの間に運命的な繋がりを感じてしまう。ここまでの流れを振り返ってみると、ペイパーカットが東澱家の長を殺した男を脱獄させた……ということになってしまうのだから。

何かを盗む怪盗が、刑務所から男を助けるということがあり得るのだろうか?

 

さて、一方その頃。

女子高生・西秋有香は、父親が詐欺で捕まった。犯罪者がいる家族に社会は優しくない。家庭での不和、周囲の攻撃、環境への苛立ちといったものが積み重なって、彼女は家出に踏み切った。

しかし、女子高生の家出というのは楽ではない。様々な場所を点々とした最後に行き着いた場所が、父の収監されている刑務所だった。そこで父と面会し、彼女はとある詐欺の依頼を受ける。刑務所の外部に連絡して金を儲けさせるなんて(しかも娘に頼むとは)、法律にも倫理にも反した行為だと思うが、西秋有香はその話に何とか乗ろうとする。

その協力を買って出たのが、ペイパーカットの協力で脱獄したことになっている双季蓮生である。

そんな女子高生とおっさんの二人が、金を儲けるために企てた詐欺の内容は、ペイパーカットの予告状を作って送りつけ、「こっちはペイパーカットの情報を持っているぞ」とサーカム保険を脅すというものだった。

……ふむ。ペイパーカットが関わる事件となると、サーカム保険のあの二人が出てくることになる。その二人を相手取って、双季蓮生と西秋有香は金を受け取ろうと画策する訳だ。

 

読み終えた後、何とも言えない感情になった。

今回の事件における加害者と被害者を線引きすることが、自分にはできない。誰もが加害者であり被害者で、その罪を背負って生き続けなければいけないのだろう。その罪がいつかは許され、報われる時が来る――その救いがやっと来たのだと思うと、とても感慨深いラストだと思う。

思わず読み返したくなる名作でした。

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