工大生のメモ帳

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メモリアノイズの流転現象 感想

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作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

生命と同等の価値があるもの

情報

作者:上遠野浩平

イラスト:斎藤岬

試し読み:メモリアノイズの流転現象/ソウルドロップ奇音録

ざっくりあらすじ

傍目にはどうでもいいとしか思えない物を盗み、同時にその人の命を奪う謎の怪盗 ”ペイパーカット” 。次に彼が現れたのは、資産家の一族が住む杜名賀邸。その標的は、杜名賀家の離婚問題調査に来ていた私立探偵・早見壬敦ではないかと疑うが……。

感想などなど

上遠野浩平作品の魅力は何かと言われれば、個人的には作品の根幹を担っている世界観にあると思う。その世界観が独特な空気感を生み、シリーズから外伝まで読み漁るにいたる中毒性の原因になっている気がする。

そんな中毒患者の一人であるブログ主は、このソウルドロップシリーズもいつしか、ブギーポップに繋がってくるのだろうという予感に似た期待を抱いていた。その期待は、この第二巻で大いに満たされることになる。

寺月恭一郎の名前が出てきた時、MPLSと思しき能力が出てきた時、それぞれの驚きは、上遠野浩平作品を読み漁っている者にしか味わえない感覚だ。これが「またか」という諦めに変わる者は、そもそも上遠野浩平氏の作品は向いていない。素直に小説版ジョジョでも読んでいて欲しい。

とはいっても、寺月恭一郎って誰だという方でも、本シリーズは楽しめる内容だと思う。ペイパーカットという謎多き人物が求める「人間とは?」という問いの行き着く先を考察する哲学的な楽しみ方もよし。20年前に起きたとされる惨殺事件の謎を推理するミステリー的な楽しみ方もよし。サーカム保険の調査員のロボット探偵が戦う様をアクション映画的に楽むもよし。

視点も探偵だったり、サーカム調査員だったり、ソガという殺し屋だったりと視点がコロコロと変わる。そんな群像劇のシステムが取られ、ミステリ・アクション・哲学的な要素のごちゃまぜ感は、初期のブギーポップを思い出させる。

そんな作品の詳しい部分を、もう少し見ていこう。

 

登場人物が多いので、今回の新キャラにして超重要人物の探偵・早見壬敦から見た世界について語りたい。この男、一癖も二癖もあるつかみ所のない人格をしており、しかしながら探偵として……いや、あらゆる面において優秀である。

そんな彼は大学の恩師からの依頼で、瀬川という名家の息子が、奥さんと別れたがっていることに関して、家の恥だからと、どうにか穏便に別れることができる方法を調査することとなった。

奥さんも社名賀という名家の娘であるらしく、互いに離婚は秒読みの険悪ムードではあるのに、互いに名家のプライドやしがらみがあるためか、即時離婚に切り出せないようだ。

なんという地獄。もうさっさと離婚してしまえよと思わなくもないが、名家には名家の深刻な悩みというものがあるのだろう。

そこで奥さんの実家である社名賀の邸宅に足を運んだ早見壬敦。たまたまその道中で、飴屋と名乗る不思議な男に出会ったり、社名賀家の一人息子と出会ったりと、紆余曲折あって奥さんとコンタクトを取ることに成功。

しかし、その家の中でペイパーカットのメモを見てしまう。

「この場所に関わる者の、生命と同等の価値のあるものを盗む」

……知らない者からしてみれば何ということのないメモだが、知っている者からしてみれば緊張の走る一瞬である。何か盗まれてしまう者は、必ずこのメモを手に取って見てしまう。

つまり早見壬敦も被害者となりうるかもしれない。

 

そんなこと露知らず、早見壬敦は離婚問題調査をしながら、この社名賀家では20年前に惨殺事件が起きていたということを知る。犯人は捕まっており、その足取りも含めた何もかもが解決したことになっている。

だが、その事件の概要を聞いた早見壬敦は違和感を覚える。何かが足りない――決定的に。ということで野山を駆けずり回ったり、周辺住民に話を聞き回ったりと独自調査を始める。

そんな様子を気が気でないといった様子で見つめる人々がいた。

まずサーカム調査員の二人である。今回もペイパーカットと思わしきメモが発見されたことで派遣されてきたのだが、そこで被害者になるかもしれないと目星を付けた相手が彼だった。そこで彼をつけ回すのだが、動き回って何やら調べようとしているし、山を登り出すし……とてんやわんやな様子を見ることができる。

さらに始末屋であるソガまでもが彼を付け狙っていた。彼に依頼された内容が明かされるのは、かなり後半部分ではあるのだが、早見壬敦に関連した依頼であるということだけは間違いないようである。

こうして早見壬敦という一人の男を中心にして事件は回っていく。

ミステリ要素あり、バトル要素もありの本シリーズ。寺月恭一郎、MPLSにピンと来た方は是非ともご一読を。

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