※ネタバレをしないように書いています。
男(モブ)に厳しい世の中です。
情報
作者:三嶋与夢
イラスト:孟達
試し読み:乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 1
ざっくりあらすじ
ダンジョンRPGから戦略シミュレーションまでできる乙女ゲームの世界に飛ばされた元社会人のリオンは、あまりに酷い女尊男卑の世界観に絶望していた。妻に虐げられ続けていた父親の背中を見て育った彼は、五十を超えた男爵家の娘に売られそうになって覚悟を決めた。
感想などなど
生憎、ブログ主は乙女ゲームをプレイしたことがない。ギャルゲーは男性が(恋愛的に)女性を攻略していくのに対し、乙女ゲームは女性が(恋愛的に)男性を攻略していく内容となっている。
ギャルゲーは男性から見て魅力的な女性が攻略対象、つまりはヒロインとして登場し、逆に乙女ゲームは魅力的な男性が攻略対象となる。魅力のない男性を攻略しろと言われても、面白くもなんともない。如何にこの男性を魅力的に描けるか、如何に続きが見たいと思わせられるイベントを用意することができるか。それがゲーム制作者達の腕の見せ所という奴なのだと思う。
さて、本作は乙女ゲームの世界に取り込まれてしまった男性が、モブとして生きていく物語だ。まぁ、原作での知識を駆使して色々と悪さはするわけだが。
つまりは乙女ゲームで攻略することになる男性陣を、ゲーム画面という色眼鏡を通さず、第三者的な視点で観測する。するとどうだろう、この「攻略したくなさ」は。できれば関わりたくないと思わせる「気持ち悪さ」は。
攻略対象は下記の四人。
王太子殿下【ユリウス・ラファ・ホルファート】
辺境伯の跡取り【ブラッド・フォウ・フィールド】
剣聖の息子にして次期伯爵の若き剣豪【クリス・フィア・アークライト】
実践主義の伯爵家の跡取りで気さくな【グレッグ・フォウ・セバーグ】
おそらくゲームをプレイしている最中は、彼ら王子達の語る不遇なエピソードに同情して涙を流すのだろう。その格好良さに惹かれて恋心を抱くのだろう。しかし彼らの行動を端から見ていると、ヒロインに固執して道を誤る厄介な男達にしか見えず、このまま進めば奈落に落ちていくようにしか思えない。
一言で説明すると四人全員が「馬鹿」である。
この世界は男性に対して厳しい。
男が女に貢ぐことは当たり前であり、結婚して子供を産めば妻としての役目は終わり。浮気は女のステータス、息子は貢ぎ物か金稼ぎの道具。その意識は学生時代に植え付けられ、女は男の奴隷を囲い込み、男は女に気に入って貰うために必死になって媚びへつらうというのが日常風景だ。
そんな女尊男卑エピソードの極めつけは、『リオンが五十過ぎ離婚歴七回の変態に、母親からの命で強制的に結婚させられそうになった』という事件であろう。噂を聞くに、その変態は別荘で男を集めて何やらしているらしい。あまり想像はしたくないが。
そのような世界で女性から言い寄って貰える王太子殿下をはじめとした攻略対象たちの地位、自分から結婚相手を選ぶ我が儘がある程度まで許されるという時点でかなり恵まれている。
女性に好かれようとした時に、貢ぎ物一つとってしても潤沢な実家の資金から捻出すれば良いのだし、攻略対象である上流階級の男達にはモブの苦しみがこれっぽっちも理解できない。
その上で彼らには一般的な常識がない。庶民感覚を身につける機会がなかったことは同情すべきかもしれないが、それにしたって救いようがない。その救いようのなさは、巻が進むに従って酷くなっていく。改善されていくのではない……という点がポイントだ。
こういうゲーム世界に転生する作品における重要なポイントは、ゲームの展開や攻略方法を知った上で何をするかだと思う。もしもリオンが女性ならば、攻略対象である男達を攻略していくということも視野に入ったかもしれない。
しかしながらリオンは男だ。
しかも女尊男卑の世界であり、男にとってはただでさえハードモードな世界であるため、彼はできる限り平穏な生活を送ることを目標とした。そのためには金と地位が必要になる。
金についてはダンジョン攻略によって得た『ロストアイテム』によって、世界を自由に飛ぶことができる飛空艇に、ルクシオンという超便利な人工知能(使い魔のようなものを想像して貰えれば良い)を手に入れることができた。ダンジョンで戦う上での技術も身についたので、最悪の場合には冒険家として生きていくことも可能である。
地位……さて、これが問題だ。そもそも男爵家の息子として生まれ、田舎とはいえど領地もある。しかしながら男爵家は位としては微妙な立ち位置であったからこそ、『変態に無理矢理にでも結婚させられそうになる』という事件が起きるのだ。結婚するにしたって、こちらから選べるような……別に結婚しなくてもいいような地位になることが彼の目標となった。
しかしどうにも上手くいかない。
これまでは田舎で平穏な暮らしをする分には悪くないと思っていたリオンは、『リオンが五十過ぎ離婚歴七回の変態に、母親からの命で強制的に結婚させられそうになった』事件をきっかけにして覚悟を決める。ゲーム世界での知識を生かし、その世界にあったダンジョンへと潜って課金アイテムを入手し、冒険者としての名を上げ、母親を黙らせて、今度こそ悠々自適な生活を送りたいと画策する。
そのダンジョン探索で手に入れた『ロストアイテム』、旧人類の残した遺産である人工知能ルクシオンを仲間に引き入れ、ゲームでの攻略対象である王子達の通う学校に、彼も通うこととなった。
このルクシオンという相棒が出来たことで楽になる学園生活、そしてゲームの主人公ではなく別の女性が王子達を攻略して逆ハーレムを築いているという奇妙な状況……ゲームが現実になったからこそ起きる不可思議な現象が、モブ(=リオン)によってさらにかき乱されていくことは言うまでもないだろう。
そんなモブが王太子達に牙を向き、歯向かうシーンは「どちらを応援すべき何だ?」と首を傾げること必死である。
なにせ王太子達が「馬鹿」ならば、リオンは「屑」なのだから。
乙女ゲームとしての原型はどこへやら、無茶苦茶になっていく展開が楽しい作品でした。