工大生のメモ帳

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リアデイルの大地にて3 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

自由に歩き回れるということ

情報

作者:Ceez

イラスト:てんまそ

試し読み:リアデイルの大地にて 3

ざっくりあらすじ

ダメージを受ける霧と、アンデットと化した住民が襲ってくる村にやって来たケーナ。そこにいた、かつて同じギルドだった仲間と共に、事態の収拾に当たる。そこにいた唯一の生き残りである少女を養子に迎えたケーナは、その過保護っぷりを遺憾なく発揮させ……。

感想などなど

親馬鹿という言葉がある。自分の子供が可愛すぎるが故に、強すぎる愛情を注いでしまい、それが周囲からは強烈に見える。そんな様子を端的に表している。

色々と言いたいことはあるかもしれないが、この第三巻におけるメインは、ケーナの親馬鹿っぷりを楽しむことだと思う。何やら不吉なダメージを与えてくる濃霧に覆われ、アンデットと化した住民が襲ってくる村の事件の収拾に当たるケーナ……と女性の外観でゲーム世界に来てしまったケオルケ、かつてはケーナと同じギルドの所属だったが、メインアカウントではなくサブアカウントの姿でこの世界に来てしまったエクシズ、その二人と共に、村を襲った奇妙な事件の収拾に当たる。

だが、ケーナにはその事態に見覚えがあった。それは特別なクエストのイベントであったのだ。つまりはそのイベントを発生させた誰かがいるのか? はたまた別の起因によって事件が起きたのか? その辺りは、何とも釈然としない。

そんなことを考えるのは後にして、さっさとクエストをクリアしてしまう三人。敵は海に浮かんでいた幽霊船であり、効率良く戦わなければ無限に沸き続ける敵に殺されるという命がいくつあっても足りない戦闘を難なくこなす様は、流石はプレイヤー(内一人はスキルマスター)。戦闘に関しては心配する点が何もない。

ついでに海中にある守護者の塔を起動させた。毎度、守護者の塔が引き起こす事件だったりするものだが、今回は海中で大人しくしているだけだったよう。まぁ、こんな場所に来ることができるのは、プレイヤーくらいなものだろう。

 

さて、本題はここからである。

村には唯一の生き残りである少女・ルカのその後をどうするか。その進路はあっさりと決まった。三児の母にして孫までいるケーナが、子育てに慣れている(?)彼女が、ルカを育てていくこととなった。

これでルカが、この世界で最も安全な場所にいる子供となったことは言うまでもない。

なにせケーナの溺愛っぷりと、その愛情の注ぎ方が常軌を逸しているからである。

まず、ケーナは二人のメイド・ロクシーヌと、執事・ロクシリウスを召喚。ゲームであれば金銭を支払って、期間限定で動いてくれる存在だったが、ゲームが現実になりシステムが崩壊したことにより、二人とも帰ることなくずっといてくれることになった。

ケーナほどではないにしても、二人とも戦闘に関してはかなりのものだ。それ以上に、炊事洗濯といった家事に関しては群を抜いている。何よりケーナのことを深く理解しているというのが大きい。

ケーナのズレ具合を説明できる事象がないか、考えていた。すると、ちょうど良い塩梅の小話が出てきたので紹介しよう。

ケーナがお世話になっていた村で、モンスターなどから身を守るためにどうすれば良いかの話し合いがもたれた。ケーナ様も当然のことながら意見を出してくれた。その案の一つが、危険なものを入れないようにする結界を張り巡らせるというものだった。名案に思われるかもしれないが、この ”危険なもの” というものには、たまたま村に立ち寄った冒険者や商人といったむしろ入れたい人達も含まれてしまう。

結界を通す通さない、危険か、そうでないかを見極める条件というのが、そこまで詳しく、便利に制限できるものではないというのがその原因だ。他にもゴーレムを作って見張らせるという案もあるようだが、それも同様の理由で厳しい。冒険者がゴーレムに襲われて殺されたとなれば目覚めも悪かろう。

ケーナ自身が提示したこれらの案は、周囲をたじろかせるには十分な効力を発揮した。彼女自身、上記のような欠点を理解しているというのは不幸中の幸いか。ある程度の手間と利便性、安全性を考慮した中間策を選ぶことができない彼女。

彼女が娘の安全性を担保するために講じる策の異常さは、是非とも読んで確認していただきたい。

……悪気はないし、むしろ愛が深いのだが。

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