工大生のメモ帳

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リアデイルの大地にて8 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

自由に歩き回れるということ

情報

作者:Ceez

イラスト:てんまそ

試し読み:リアデイルの大地にて 8

ざっくりあらすじ

ゲーム時代には茶国と呼ばれていた廃都に封じ込められたイベントモンスター達が、システムの枠を外れ受肉し、繁殖しているらしい。しかも廃都を覆っていた結界が、そろそろなくなってしまうのだという。モンスター達から世界を守るため、プレイヤー達が集結する最後のイベントが発令された。

感想などなど

クーという妖精の姿をしたゲームの根幹システムを従え、その身にもシステムがインストールされているケーナ。”銀冠の魔女” と呼ばれるスキルマスターである彼女が、もしも倒された場合、同時に世界も崩壊してしまうことを知っている者はオプスくらいなものだろう。

ただ彼女がプレイヤーやモンスターに倒されるようなことは想像できない。これまで圧倒的な力で敵を屠ってきた彼女の手にかかれば、一国を相手にしたって負けることはないだろう。

そんな彼女も危ない……かもしれない危機が、刻一刻と迫っていた。

ケーナはゲーム時代に一国を滅ぼしている。茶国と呼ばれたその国は、閉鎖されて今は廃都となっている。さらには何重にも結界が張られ、中には入ることができないように、中から外にも出ることができないようにされていた。

その結界を施したのは、大抵の問題の裏にいるオプスである。

なぜ結界を施したかといえば、危険で面倒なイベントモンスターを一箇所に封じ込めておくため。いつかは対処しようとしていたらしい。どう対処するかは知らないが、そのまま時間だけが経過し、蠱毒の要領で強力なイベントモンスターは繁殖していった。

かつて港の村が謎の霧で滅びている事件があった。それもこの廃都から少しずつ漏れ出たモンスターによる影響らしい。

『少し』だけで、一つの村が簡単に滅びるレベルだというのに、結界が完全に壊れ、中のモンスター達が解き放たれたとしたら、世界は平和から混沌へと真っ逆さまだろうことは想像に難くない。

ちなみに結界は「オープンセサミ」と言ったら開くらしい。もしもプレイヤーが近づいて、結界や扉を開く定番台詞を吐いてしまったら……ありそうで恐い。

 

もう少し読者の危機感を煽るために、イベントモンスターについて説明しておく。といっても名前の通り、特別なイベントでしか戦うことのできない特殊なモンスターのことで、その強さも報酬もそこらにいるモンスターとは別格だ。

ケーナ達のいたギルドも、かつてはイベントモンスター狩りに勤しんでいた。その中にはケーナが自爆することでギリギリ勝つことができた奴もいるということだった。

自爆。大抵のゲームでは最後の切り札として使われているが、リアデイルでも例外ではない。自分の命と幾つかのレベルを犠牲にして相手に大ダメージを与えることができる。ゲームであれば命を失ったとて、リスポーンすることが可能だ。

ただ今はゲームではないリアルな世界。自爆して復活……なんて甘いことはない。死んだら復活なんてできない。それにケーナが死んだら世界も崩壊する。

ケーナが自爆するしかない程に追い詰められた相手が、結界の奥で強化されていて、それがそろそろ解き放たれようとしている。この危機的状況を打開するため、オプスは最後のイベントを発令し、プレイヤー達を招集する作戦を打ち出した。

ただ現実に帰ることを諦め、ゲーム世界での生活に溶け込んで生きている者達が、世界を守るための戦いに参加してくれるだろうか。しかし集まってくれないと世界が終わる。

前半はそんな決戦に向けての準備をしつつ、マイマイから依頼された仕事をこなし、後半はいよいよ戦の幕開けとなる。

 

この第十三巻のポイントは、世界の危機に意外とノリノリに関わってくれるプレイヤー達だろうか。意外なところにいるプレイヤー達が、状況のヤバさを理解しつつ、銀巻の魔女を恐れつつ、少しずつ集まってきてくれる過程は、これから始まる戦いへの期待を高めてくれる。

そしてゲーム世界でもかなり浮いた存在であるケーナが、プレイヤー達の中でもかなり浮いた存在であるということも、はっきりと浮き彫りになる。まぁ、読者としても察してはいたが。

常識人面して、どこかズレてるんだよなぁ……とケーナの行動を眺める。ただ彼女には彼女なりの正義があっての行為だというのは、痛い程に理解できる。どうかこれからも、この世界のためにそのままでいてくれと願わずにはいられない。

危機的な状況に反して、楽しい第八巻であった。

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