工大生のメモ帳

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【映画】リバー、流れないでよ 感想

※ネタバレをしないように書いています。

時間よ、流れて

情報

監督:山口淳太

脚本:上田誠

主演:藤谷理子、鳥越裕貴

ざっくりあらすじ

貴船にある老舗料理旅館「ふじや」の従業員や宿泊客達は、同じ2分をずっと繰り返すタイムループしていることに気付く。混乱する宿泊達を宥めながら、ループを抜けだそうとするが――。

感想などなど

タイムループ作品は星の数ほどあるが、それらに共通する醍醐味は「どうせループするから」という何でもあり感、絶対に遡らない時間に挑戦するSF感、同じ時間を繰り返すことで回収されていく怒濤の伏線回収感……の3つだと思う。

例えば1つ目、「どうせループするから」と何でもありになるというのは、タイムループ作品における王道展開である。普通に時間が流れる日常生活においては、理性によって止めていた突拍子もない行動も、「どうせループしてなくなるから」ということで理性のタガが外れて起こせてしまう。

具体的にどんなことをしてしまうかは見て確認して欲しいが、本作におけるループは2分間ととても短い。しかし、だからこそできる突拍子のない行動を、たくさんの人物がしてくれる。そのバリエーションもギャグ的な展開を演出するものから、情熱的な恋愛模様を演出するものから、それまでのギャグ的な展開から一転してシリアスへと向かうものまで幅広く、タイムループ作品によって描ける世界の幅広さを見せつけられる構成になっている。

2つ目のSF感はわざわざ説明するまでもないかもしれない。時間遡行なんてSFという一大ジャンルの中の一大ジャンルを担っているといっても過言ではないだろう。

そんなタイムループ作品だが、タイムループする理屈を説明しないものも珍しくない。しかし、本作は「どうしてループするのか?」という問題を解決しようと奔走し、最後にはきっちり解決させる。その解決方法はこれまでの伏線の全てを回収するようになっており、ストーリーに直結している。

3つ目の伏線回収については、これからしっかり語っていきたい。

 

そもそも舞台となる老舗料理旅館「ふじや」は、SFというジャンルとは程遠い詫び寂びのある自然豊かな空間である。そこで働く従業員も、普通の仲居や普通の料理人であり、SFっぽさはない。そこに来ている人も普通の社会人二人、締め切りが近い作家というこれまたSFっぽさはない。

しかし、突如として同じ2分間が繰り返されるというSF的な事象が起こる。このチグハグな感じが面白い。ちょっとずつSF慣れしてない彼らが状況を受け入れ……いや、むしろ早すぎる気がするが、とにかく受け入れていく。

本作におけるタイムリープで特徴的なのは、全員がその記憶を持ち越しているということだ。そのため繰り返されるループの度に、従業員は来てくれているお客様の混乱を抑えるための奮闘が最適化されていき、お客様はお客様で繰り返される2分間をどう過ごすかの奮闘が最適化されていく。

最適化された果てに待ち受けているモノは何か? 慣れと飽きである。

目の前にある食事はループが繰り返される限り減ることはないが、同じ味は流石に飽きる。寝ようにも繰り返されるループの中では眠れない。寝ていても起きた状態に戻されるからだ。ループの原因を探ろうと動き回っても、元いた場所に戻される。その状況から抜け出そうとする思いは暴走を生む。

この映画は1時間25分という尺の中に、あらゆる展開が詰め込まれていく。

冒頭はギャグから始まり、繰り返されるループの中でしか出来なかったことをすることで始まる恋愛や狂気が始まり……最後はそれら全てが無駄では無かったと繋がっていく。

全てが上手くまとまっていく展開は、とても綺麗の一言。さっくり見られる名作だった。