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ログ・ホライズン9 カナミ、ゴー!イースト! 感想

【前:第八巻】【第一巻】【次:第十巻】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

ゲームみたいな異世界

情報

作者:橙乃ままれ

イラスト:ハラカズヒロ

試し読み:ログ・ホライズン 9 カナミ、ゴー!イースト!

ざっくりあらすじ

北米サーバを飛び出して、各国サーバーを回っていたレオナルドは中国サーバで絶望的な状況に置かれていた。そんな窮地を救ったのは、「放蕩者の茶会」の元リーダーにして〈武闘家〉カナミ、「赤枝の騎士団」に所属していた英雄エリアス、〈施療神官〉のコッペリアという個性豊かな三人であった。

感想などなど

これまで日本サーバでの話しか描かれてこなかった。しかし現実には、ゲーム世界に人々が転移させられたという大災害は、全世界規模で発生しており、アメリカも中国も例には漏れない。

日本サーバの各地でNPCに対する酷い仕打ちや、冒険者達の混乱は発生しており、それらを治めるべく奮闘したシロエ達の行動が、これまで描かれてきた。日本サーバ、特にアキバの街での治安の良さは、これまでのシロエ達の行動によるものが大きい。

そんな戦いはアメリカでも中国でも発生しており、場所によっては日本以上に酷い惨状と化している国も珍しくない。

レオナルドはそんな惨状を見かねて、大好きで仕方なかった国を抜け出した者の一人だ。彼がいたサーバは北米サーバ。話を見るに、初期アキバの惨状と、初期ススキノの惨状を足して二で割った感じだろうか。NPCの売買は当たり前、初心者を閉じ込めてアイテムを強奪するようなあくどいことも平気でやっていたと推測される。

そんな状況に失望し、サーバを抜け出した。この辺りがシロエとの大きな違いだろうか。シロエは街を変える道を選び、レオナルドは抜け出す道を選んだのだ。だからといって、レオナルドを責めることはできないが。きっと彼が普通だろう。

そんな彼が各国を方々見て回って、中国サーバに辿り付き、当てもない砂漠を歩き回っている時だった。彼は窮地に立たされる。

 

冒険者は死なない、というような表現がよく使われているが、それは正確ではない。適切な表現を使うと、リスポーン地点である神殿から復活すると言うべきだ。ドラゴンクエストでは死んでも教会で復活するように、ポケモンでは負けてもポケモンセンターから再度スタートするように、ログ・ホライズンの世界においては神殿が新しいスタート地点ということになる。

それらは本来、アキバやススキノというような街中にあり、ダンジョンで死んだ際には最後に立ち寄った街で復活するというようなシステムとなっている。

だがごくたまに、ダンジョンのスタート地点にそういったリスポーン地点が存在する場合がある。何度も挑戦することになるダンジョンや、そもそもダンジョンに辿り付くまでが大変なダンジョンという場合の救済措置として、ゲームデザインとして珍しいものではない。

レオナルドは人が大勢いる街を離れて、砂漠で偶然に見つけた人っ子一人居ない廃れた街テケリに立ち入った。その瞬間、その街テケリがセーブ地点となった。ここまでは当然である。廃れたとはいえ、人がいないとはいえ、街というように設定されているのだから仕方がない。

その街の中心部でうっかり水鏡に触ったことがトリガとなって、大規模イベントが発生した。レベル52の精霊系モンスター〈陽炎悪鬼〉が大量発生し、レオナルドを襲ってきたのだ。本来はレイドで望むことを想定されたシナリオであるらしく、外に逃げようにも多勢に無勢。脱出前に殺されて、街の中心部にあった神殿で復活してしまう。

つまり、死んでも街から出られなくなってしまった。いわゆる詰みセーブである。

 

食料も底を突き、餓死でもリスポーンするのか実験することになる一歩手前という状況にに颯爽と現れた「放蕩者の茶会」の元リーダーにして〈武闘家〉カナミ、「赤枝の騎士団」に所属していた英雄エリアス、〈施療神官〉のコッペリアの三人。

カナミはシロエの回想で一応出てきており、かなり無茶なことにも周りを巻き込んで進んで突っ込んでいく性格だった。その無茶を叶えてきたのは、いつも周りのメンバーであって、それでも嫌われることなく慕われていた。一匹狼のシロエも所属していた「放蕩者の茶会」が存続していたのは、紛れもなく彼女の影響が大きい。その証拠に、彼女がゲームから離れたことで「放蕩者の茶会」はすぐさま自然消滅している。

エリアスは古代種と呼ばれる冒険者を越えるレベルと力を有する存在で、メタ的な言い方をするとNPCである。

そういえば日本における古代種は、何故か消えてしまっていることを覚えているだろうか。三、四巻の「ゴブリン王の帰還」クエストだって、彼ら古代種がいればここまで苦戦することもなかったであろう(そもそも発生しなかったかもしれない)。この第九巻は日本ではない中国サーバでの出来事であるが、そんな謎にも言及され、裏で暗躍する黒い影の存在がはっきりと姿を見せてくれる重要な話でもある。

前半部を読んでいる時は、シロエもアカツキもでない展開にナンバリングっぽくない外伝っぽさを感じていたが、少しずつ日本での出来事と繋がりが見えてくるような構成になっている。もしも前半で飽きてしまったという方がいれば、後半まで読むことをおすすめしたい。

……さて、話がそれてしまった。三人目のコッペリアは140センチという小柄な体型に、メイド服を着込んだ少女だ。回復職である〈施療神官〉ということもあり、戦闘力はあまり高くないようだが、それでも的確な行動で周囲を助けてくれる。人形みたいな話し方と表現される独特な話し方であるが、決して人の心が分からないとか、人の心を持っていないとかそういうことはない。魅力的な女の子である。

そんな彼女達に助けられたレオナルド。レベルは90と最高レベルであって弱くないのだが、そんな彼でも手も足もでなかった〈陽炎悪鬼〉をばったばたと倒して街を脱出していく過程はレベルだけでは測れない力量があるということを、まざまざと見せつけてくれる。

 

カナミ達一行は、どうやら東にある国・日本を目指して徒歩で旅しているらしい。

日本サーバが世界で最も早く日付が変わり、アップデート「ノウアスフィアの開墾」が唯一反映されているのでは? と考え、この大災害が起きた原因の調査をすることが目的であるようだ。

なるほど、実に理に叶っている。中国から日本に行くために、海を泳いで行く気満々である点など、そもそも中国という広大な土地を徒歩で横断するつもり満々であるという点など色々と無茶をしようとしていることに目を瞑れば。

そんな彼女達の向かう日本に興味を持ったレオナルドも、旅に同行し無茶に首を突っ込んでいくことになる。最初は心労の耐えなかった彼であったが、NPCを同じ人として扱う姿を目にして、そんなNPC達のために無茶な戦いに身を投じる姿に感化されて、かつて憧れていたヒーロー像を思い出す彼の成長は必見だ。

アキバの街の面々が出ないからと侮るなかれ。魅力的なキャラクターばかりの物語だ。

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