工大生のメモ帳

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【映画】ロスト・バケーション 感想

※ネタバレをしないように書いています。

たった一人の海

情報

監督 :ジャウマ・コレット=セラ

脚本 :アンソニー・ジャスウィンスキー

ざっくりあらすじ

医学生のナンシーは、今は亡き母に教えて貰った秘密のビーチでサーフィンに興じていた。しかし、クジラを仕留めた一匹の巨大な鮫が彼女に襲いかかる。

感想などなど

鮫映画というのは数多ある。有名所からマイナー作品に至るまで、鮫に魔改造を施して頭を増やしてみたり、トルネードに乗せて飛ばしてみたり、個性を出そうと奮闘している様をブログ主は楽しく見させて貰っている。

恐いを通り超した無茶苦茶さは、決して嫌いではない。何だかんだで見てしまうのだから、もしかすると好きなのかもしれない。

しかし本作は、そのような路線とは一線を画した真面目な鮫映画となっている。

最初に述べたような無茶苦茶設定の鮫映画というのは、得てして人対人のような対立構造になりがちだ。鮫映画を見ていたつもりが、もしやこれはSFか? と首を傾げてしまうことも珍しくない。

舞台が海ではないということも、今となっては珍しくない。鮫は水陸両用の化け物として認知される日も、そう遠くはないかもしれない。

そういった比較対象があまりにアレすぎるので申し訳なくなるのだが、本作はずっとビーチ上で起きている出来事であり、鮫は頭がいっぱいあったりしないし、空を飛んでいたり復活したりしない。唐突な光線銃のようなものを取り出してドンパチするようなこともなければ、世界を巻き込んだ危機的状況に陥るようなことはない。

本作はあくまで、自然対一人の女性という対立構造を貫き続けてくれた。映像もそれに合わせて、底の見えない海の底知れぬ怖さや、それでいて何処か美しさすら感じられるような構図というものが取られていく。

海が血で赤く染め上げられていくシーンといのは鮫映画の定番ではあるが、それにより感じる恐怖心というのが、本作はより掻き立てられるようになっていた。その辺り、映像として完成度の高さが伺える。

 

真面目と評したのには理由がある。それは本作が『丁寧なストーリー構成』によって形作られているという印象を受けたからだ。九十分という映画としては短めな作品の中に、細やかな伏線が張り巡らされ、それが丁寧に回収されていくことで物語が進行していく。

冒頭にて、ヘッドカメラを身につけたサーファーが鮫に襲われ、その瞬間を捉えたカメラがビーチに流れ着き、それを確認した少年がビーチを飛び出していくシーンから始まっていく。

鮫に襲われる瞬間、つまりは巨大な口が開かれ、その中に飲み込まれていく絶望というものがはっきりと克明に描かれている。鮫映画の導入部としてはある種のテンプレとも思えるシーンではあるが、そのシーンの意味というものが後半になるにつれて別の意味を持つようになることは、最後まで見なければ分からない。

ビーチで主人公がサーフィンをするに当たって、二人の男性サーファーと出会う。実はその二人が冒頭で登場して後に鮫に喰われることになるのだが、その話は置いておくとして。ここでの会話で登場した干潮、満潮の話が重要になってくる。またクラゲや岩礁、珊瑚といったワードも登場し、それらも伏線として印象づけられて意味を持つようになってくる。

また、不安を煽り、恐怖を覚えさせるような構成も上手い。

少し沖の方に出ると、巨大なクジラの死体というものが現れる。その腹部には大きく抉り取られたような、囓られたような跡というものが見て取れる。鮫映画として見ている視聴者の脳裏には、まさかという疑念が渦巻くことになるだろう。

主人公が脚を囓られることで深い傷を負う。作中の描写的には、囓られたというよりには歯が掠ったという方が適切かもしれないが、それにより血が赤く染まっていく映像は恐怖と緊張感を煽ってくる。

主人公がとても有能であるというのも、鮫映画としてポイントが高い。重要なのは筋肉でどうにかしようとするのではなく、知識などを駆使して生き残るための最善手を打ち続けてくれることにある。

脚を負傷した主人公は岩礁(満潮になると沈んでしまう)に乗ることで一時的に逃げ延びる。しかしパックリと割れたような深い傷は、いずれ出血死してしまう。それを防ぐためにピアスなどを駆使して簡単な縫合を施す。またしっかりと包帯――はないのでウェットスーツを切ることで包帯代わりにして巻き付ける。

医学生ということもあり、その手の知識にはかなり詳しいのだ。また、しっかりと状況を見極めて計画を練り、それを実行するだけの勇気も持ち合わせている。

 

そんな恐怖とハラハラな展開だけではなく、主人公の人間ドラマ的要素というものも、鮫との戦いというメインストーリーを邪魔することなく、アクセントとして描かれていく。

岩礁で見つけた負傷したカモメ。自身がただでさえ死にそうだというのに、その負傷を治してあげる優しさ。その行動の裏の思いというものが、唯一できた友人という言葉で語られる。

とても丁寧に作られた映画であった。

……本来鮫映画ってこうあるべきなんじゃ。

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