※ネタバレをしないように書いています。
魔に呑まれる
情報
作者:宇野朴人
イラスト:ミユキルリア
試し読み:七つの魔剣が支配する VI
ざっくりあらすじ
エンリコが死んだことで警戒を強めるキンバリー魔法学校の教師陣達。オリバー達も警戒を強めるが、エンリコとの戦いによって受けた傷は深かった。
感想などなど
人や亜人をエネルギーとして動く巨大ゴーレムを、命を代償にした呪いをかけることで暴走させた作戦は、エンリコに効果覿面だった。結果として十一人の犠牲者を出しながらの辛勝だったが、むしろ十一人で済んで良かったという気持ちの方が大きい。何よりオリバーが死ななかったことが、仲間達にとっては大きな救いだっただろう。
「彼(=オリバー)が優しいままであれる世界」という台詞が、彼に付き従う配下達が理由になっている。そして、自らの命すらも差し出す覚悟を生み出した。オリバーが王だからこそ、エンリコとの戦いは勝てたのだ。
生き残ったオリバーはそんな仲間達の死を背負い、これからも戦い続けなければいけない。しかし、ここで一つの問題が発生する。オリバーはクロエの魂を自分に取り憑かせることで、エンリコとの戦闘に臨んだ。その結果、彼の肉体と魂はこれまでのものとは変質してしまい、従来通りの動きができなくなってしまったのだ。
自分の身体が自分のものではないような感覚は、彼がこれまで積み重ねて培ってきた強さを一瞬にして奪った。その事実は大きく、オリバーの覚悟を消沈させるには十分過ぎるくらいのインパクトがあった。
その彼の違和感は周囲に伝播し、彼のことを心配する者達が優しい言葉をかけてくれる。「時間が解決してくれる」「また頑張ればいい」……その優しさはオリバーがこれまで周囲に向けていたものが返ってきたと考えると、復讐にその身をやつしていながら人としての気遣いを忘れなかった彼の強さが窺い知れる。
そんな彼の苦しみを救ってくれたのは、遠い遠方からキンバリー魔法学校にやって来たサムライ・ナナオであった。彼女はただ優しい言葉を投げかけるのではなく、明確な解決法を、そして親身になって寄り添ってくれる温もりを持って導いてくれた。
そんな彼女にオリバーがどれほど救われたか。まだまだオリバーは戦える……復讐は終わらないようだ。
多くの仲間の命が失われたということ、教師陣が警戒しているということを鑑みて、しばらくの間は行動を控えた方がいいだろうと判断したオリバー達。とりあえず学園生活に溶け込んで、犯人であることがバレないようにすることが先決だった。
教師が一年で二名も失踪した救急事態に、校長エスメラルダはとある触れを出した。それは、『これから開催される箒競争、箒打合、箒合戦の全種目で、リーグ戦の賞金・賞品を上乗せする』というものだ。
これはいわゆる校舎に生徒を集結させることで、犯人を炙り出すためのエサだ。ここで考えないといけないのは、生徒も犯人の候補として考えられているという点である。エンリコを殺せるような実力のある魔法使いなぞ、教師ましてや生徒にいるという可能性に目を向けているのだ。
真っ先に疑われていたのは、学生統括であるゴットフレイだ。その実力を鑑みた場合、生徒の中で最も疑わしいのは彼になるというのは、実に理に適っている。その疑惑の目がオリバーまで向くのは、いつになるのだろうか。もしくはオリバーの仲間達に向けられるのは。
しかもエスメラルダは校内監査の一環で、生徒達にスパイを潜り込ませているようだった。オリバー達もその可能性は考慮し、警戒を怠っているつもりはない。しかし相手はエスメラルダ。生半可な覚悟では隠し通せるものではないことは理解しておかなければなるまい。
さて、そんな緊張した空気が漂うキンバリー魔法学校だが、その理由はエンリコの死だけではない。近い内に開催される箒競争、箒打合、箒合戦は学生達が楽しみにしているイベントの一つで、商品が豪華になったことはイベントを大いに盛り上げた。
また近々学生統括の選挙もある。今はゴットフレイがその席に座り、その実力と人気から多くの人から支持を集めている。次期統括に向けられた期待は相当なものだろう。そして数多くの候補が乱立し、互いに相手を貶めるための争いが影ながら起こっていた。
それに巻き込まれていくのがナナオやオリバー達だ。なんとあのミリガンが、学生統括に立候補したのだ。そしてカティも人権派として、彼女を応援する立場に立ち、お世話になっているナナオ達もまた、彼女に協力していくこととなる。
この争いは我々が高校で経験したような生徒会選挙とは比べものにならないような、卑屈さに卑劣さで蹴落とし合いが起こっている。魔法による攻撃の雨あられは日常風景と言って良い。箒競争や箒合戦すらも、互いの息がかかった面々が勝つように裏で足の引っ張り合いが起こっている。
それが許せないのはアシュベリーという最強の箒使いだ。ナナオをボコボコにしたことからも、覚えている者もいるのではないだろうか。彼女はそんな不正が許せず、対等な勝負をしたいと願う者だった。
そんな彼女の意思とは裏腹に、ナナオを負けさせたい者やアシュベリーを負けさせたい者達の意思が介在する戦いの舞台。その戦場で最後まで箒に乗っている者は誰なのだろうか。
アシュベリーの箒に向けている感情は、命すらも懸ける魔の道で、その道の行き着く先がこの第六巻で描かれていく。その美しきラストは是非とも読んで確認していただきたい。