工大生のメモ帳

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人類は衰退しました9 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

月へ行こう

情報

作者:田中ロミオ

イラスト:山崎透

ざっくりあらすじ

祖父の訃報を受けて、月へ行くことを覚悟したわたし。そんな中、妖精さんがわたしにくれたのは、『いま ←→ さいしょ 無制限』と書かれたフリーパスだった。

感想などなど

クスノキの里での騒動を解決したかと思いきや、まさかの祖父の訃報が届くという結末を迎えた第八巻。ここから第九巻が出版されるまで一年も経過したらしく、リアルタイムで読んでいた人は生きた心地がしなかったことでしょう。

そして迎えた最終巻である第九巻。

Wikipediaで本作のジャンルを調べた所、 SF、メルヘン、ファンタジー、ブラックコメディというように書かれていました。記事を書いた人も良く分かっていないのではないように思います。

残念なことに、結末を読み終えたブログ主も明確なジャンル分けができない心境にいました。月に向かおうとして悪戦苦闘する様はSFのように見えなくもありませんが、妖精さんが見せてくれる光景はどこか幻想的なファンタジー的気質を持ち合わせているように思います。

SFとファンタジーを分けるものは一体なんなのでしょう。良く分かりません、一度語り始めようものなら数千字……いや、数万字くらいは書けそうなテーマです。名残惜しいですが、メインではないのでその話はまたの機会に。

今回、今の世界が成立する歴史というものが説明されます。生命の誕生から始まり、木を昇っていた猿が二本足で地面を闊歩し、人類として文明を作り上げ、血を血で洗う凄惨な戦争を経験し、再び人類は文明を築き上げました。

その過程を追体験できる列車――それに乗るために必要なものこそが、あらすじで示した『いま ←→ さいしょ 無制限』と書かれたフリーパスでした。

 

さて、わたしは祖父を助けに月へと行くため、上記列車へと乗ることを決めました。過去の人類がどのように月が行ったのかを知るためです。また、どうやら祖父もその列車に乗って、この人類の歴史の全てを見ているらしく、第八巻で夢の中で祖父と会った原因が列車のせいかも、とも考えたようでした。

この列車での短い旅において、注目すべきことは二つ。

一つ目は『妖精と人類が歩んだ歴史』です。どうやら妖精の姿は、昔から可愛らしい小人ではなく、緑だったり、ひょろ長い小さな人だったりと、様々な変遷を遂げているようなのです。また、現在のようにみんな驚く超技術を持ち合わせていた訳ではなく、何もできなかったり、物を自在に動かしたりすることしかできなかったりもするようでした。

これまで謎だった人類と妖精が入れ替わっていく過程というものが、徐々に分かっていく訳です。

そして二つ目は『祖父は歴史の全てを見ている』ました。つまり人類と妖精が入れ替わる過程から今に至るまでの全てを見ている訳です。一方、わたしは人類が月に行くことができる宇宙エレベーターなるものを作り上げたところで下車してしまいました。その時点ではまだ、人類は衰退していませんでした。

この見ている情報の差――そして本作を読んでいると祖父の言動に関して感じる違和感……これらが繋がる時、衝撃の真実が明らかになります。

 

衝撃の真実、それはズバリ『わたし』の正体です。『わたし』に正体もクソもあるのだろうか? と疑問にお思いの方、多いのではと思います。『わたし』は人類でありそれ以上でもそれ以下でもないのではないだろうか? と。

その認識は決して間違いではありません。『わたし』は確かに『人類』なのです。凄く意味深な言い方しかできないことを、どうか許して下さい。そして、どうかネタバレを見ずに読んで見て下さい。せっかく絶対にネタバレをしないという本ブログに来て下さったのですから。

歴史を見てきた祖父は、その真実を知ってしまったのです。それを踏まえつつ、物語を読み進めてみて下さい。結末というものを予想してみて下さい。

真実を知った上で、この世界の行く末というものを考えてみて下さい。

SFであり、ファンタジーでもある。本作の世界観というものを心ゆくまで堪能しましょう。

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