工大生のメモ帳

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やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。⑩ 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

進路選択

情報

作者:渡 航

イラスト:ぽんかん⑧

ざっくりあらすじ

のんびりとした冬休み。小町の高校受験合格祈願を兼ねた初詣や、由比ヶ浜との買い物など、予想外の外出が続く最中、雪ノ下陽乃と葉山隼人に出会う。お互いのことを少しは知ったように思っていても、まったくそんなことはなかったと知る。残り短い二年生としての時間をどのように過ごすのか。

感想などなど

高校二年生の冬になると、三年生に上がる準備としてのイベントごとが様々ある。学校によっても時期や形態は異なってくるだろうが、これまで三年生に上がるということ、つまりは受験を意識し始めることのなかった学生も、無理矢理に将来設計を考えざるを得ない状況に追い込まれるのがこの時期だろう。

普通科である八幡や由比ヶ浜、葉山も含め、三年生での文理選択を迫られる。それぞれ将来やりたいことや今の学力状況を鑑み、あーでもない、こーでもないを言い合いながら考えを深めていく。

ブログ主は「工大生のメモ帳」という名称のブログを立ち上げるということもあり、理系人間である。数学と物理が好きで、プログラムに対して興味があったからこそ進んだ道であるため、迷いも躊躇いもなく選択した記憶がある。

そのようにはっきりと選択できる人は稀であるようにブログ主は感じる。高校二年生の時点で明確な将来の夢があるような生徒なら露知らず、やりたいこともない生徒は「数学が嫌いだから」「英語が嫌いだから」という理由で選択肢を狭め、結局「あの子と一緒にいたいから」という理由を選択することも珍しくないだろう。

本作の登場人物達も同様である。

八幡は国語が学年二位という圧倒的強みがあるための私文選択……なんと前半段階で選択をはっきりとすることができた生徒は彼だけであった。由比ヶ浜はポワポワしてて良く分かっていないし、戸部はだべだべ言ってて次の瞬間には考えが変わっていて、何も考えていないというような印象を受ける。

しかし後半になると戸塚が体育系の大学に進むため、文理どっちでも問題がないということや、女子がいないから理系に進むという材木座などが現れる。ここは構成の妙であろう。前半と後半では物語に対する印象というものが大きく変わっていく。

前半では由比ヶ浜達のように文理選択でまごつく生徒の話を見ていくことで、もう一度書くが『何も考えていない』という印象を受ける。しかし後半になるに連れて、そんな面々も色々なことを考えていたということが分かるようになっていくのだ。前半部と後半部で物語の印象が変わっていく人も多いのではないだろうか。

 

奉仕部として取り組むことになる依頼は大きく二つ。『葉山と雪ノ下の噂の解消』と『葉山隼人の文理選択の調査』である。

まずは『葉山と雪ノ下の噂の解消』について。物語の冒頭、陽乃さんの性格の悪い策略により、雪ノ下と葉山は(家庭間の事情により)二人で行動することになる。それを学校の生徒に見られたことで、ゲスの勘ぐりが働き、「二人は付き合っているのでは?」という噂が広まった。

これを解消しようとするも人の噂も七十五日。時間が経てば、勝手に人は忘れていくだろうと考えていた。まぁ、それは少しばかり事態を甘く見すぎていたらしい。

葉山も雪ノ下も、成績はツートップ。ルックスもそれぞれがトップクラスであり、学内では知らぬ人はいない有名人。噂の広まり方も尋常ではなく、尾びれ背びれの付き方も多岐に渡る。雪ノ下自身、自分が周囲にどのように思われているのかを甘く見すぎているのかもしれない。解決は不可能かに思えるほどに。

次に『葉山隼人の文理選択の調査』についてだ。依頼人は葉山大好き三浦優美子。どうやら葉山のことを知りたいという乙女の願いであるらしい。ずいぶんと可愛らしいではなかろうか。

そんな彼女の思いに応えるべく、葉山の文理選択を聞きに行く八幡。この物語におけるメインは、この葉山と八幡の会話にあるような気がする。いわば答え合わせという奴だ。

これまでぼかされてきた葉山と雪ノ下の関係性と過去、葉山が八幡に向けて語る意味深な言葉の数々。それらの真意が明かされていく。

葉山は「自分は何も選択しない」とラストに語る。この一言では意味が分からないかもしれないが、葉山と八幡の一騒動を経てから見ると、彼の諦めや心理というものを表したものであると分かる。互いに別種の捻くれものであると分かる物語だった。

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