※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
プロム
情報
作者:渡 航
イラスト:ぽんかん⑧
ざっくりあらすじ
水族館で過ごした時間を経て、新たな一歩を歩みだそうとする三人。そんな奉仕部に一色から、学校でプロムを開催したいという大きな依頼が持ち込まれる。それを受けて雪ノ下は一つの決意をする。
感想などなど
第十一巻。誰も言葉にしなかった三人の関係性に――陽乃さんの性格の悪い後押しのせいとはいえ――言及しそれぞれの思いを吐露した。正確には雪乃はまだ言っていなかった訳だが。
ということで第十二巻の冒頭では、雪乃が自身の想いを吐き出す場面から始まっていく。雪の降る水族館、吐き出す息は白くなり、手に握られた由比ヶ浜のクッキーはバレンタインがあったことを思い出させる。
同時にこれまでの奉仕部としての思い出話に花が咲いた。最初は平塚先生にむりやり作られた関係性だったかもしれないが、クッキーの依頼が由比ヶ浜に持ち込まれたことから始まり、それ以外にも様々な依頼を経て、三人の関係性は変化してきた。
そして迎える第十二巻。正直言うと、今回のエピソードは第十三巻を後編とした、前編というような立ち位置である。奉仕部としての依頼を受け、事件が起こり、解決するというこれまでの流れにおいて、第十二巻の結末は事件が起きた段階で終わっている。
しかし、『小町の受験』結果や『陽乃さんが語る真意』など注目すべき観点は多くあるため、それぞれに言及していきたい。
『小町の受験』する高校は、比企谷八幡の通っている総武高校である。それなりの進学校ということもあり、試験結果や通知表の結果も重視され、難易度の高さが描写の節々から感じられる。良くもまぁ由比ヶ浜が受かったものだ。
小町の成績はそれほど良くはないらしい。かなり頑張らなければ受からない、と小町自身が語っている。「ごみいちゃんを片付けなきゃ」と死んだ魚の目をして語っていた年末が懐かしい。あれから彼女も頑張ったのだろう。
何だかんだで、お兄ちゃんとして八幡も協力していた。捻くれているせいで、ストレートに助けてくれることは少なかったかもしれないが(いやシスコンだから結構分かり安かったりしたのか?)、妹は優しき兄のことを理解して慕ってくれる。
そんな彼女の頑張りの結果と、妹から兄に対する感謝というものが、比較的ストレートに描かれていく。感情表現が婉曲的な兄とは違い、分かりやすく言葉にしてくれる妹というのが対照的で面白い。それは兄を反面教師とした結果なのか、父親似の兄とは違い、母親の血を色濃く受け継いだからなのかは定かではない。
『陽乃さんが語る真意』とは書いたが、彼女が酔った状態で語る言葉であるため、理屈や話題があっちこっちと言ってしまう。しかし、どの言葉も本筋は妹である『雪乃』のことを指し示している。
妹に優しい八幡とは対照的に描かれがちな陽乃さんではあるが、姉ということもあり、理解度というものはかなりのものだ。雪乃が何に苦悩しているのか、を知っている。
まずは母親のこと。話を整理していくと、陽乃しかり雪乃しかり、進路や将来設計は全て母親の脳内で決まっているらしい。そこに雪乃や陽乃自身の意見というものは含まれていない。
物語を読み進めていくと、雪乃と母親の会話するシーンがいくつかある。それを見ると、母親は娘の意見を聞いているようで全く聞いていない。理解を示す頷きはするが、それを受け止め反映する意思は微塵も感じられない。議論しているようで、一方通行の言葉の並びにしかなっていない。
そんな会話は、外から眺める読者や八幡にとっては険悪以外の何ものでもない。見ていて辛くなっていく。助け船なんて無駄だ。雪乃の意見すら聞かないというのに、外部の人間の言葉なんて届くはずがないのだ。
それらはさておき。
奉仕部には一色から『プロムを開催したい』という依頼が舞い込んでくる。プロム? 医学用語でありそうな単語だが、実際は『プロムナード(米:promenade、舞踏会)の略称で、イギリス・アメリカ・カナダの高校で学年の最後に開かれるフォーマルなダンスパーティーのことである。(プロム - Wikipedia)』
つまりは学年の最後にダンスパーティを開催したいという内容だ。これまでは学年最後に質素な立食会のようなものをしていたが、一色の独断と派手なことをしたいという願望のために、予算や教師陣を黙らせる算段であるらしい。
まぁ、実際は教師陣はとくべつ止めるようなこともせず、予算も雪乃の協力により何とかなりそうなレベルにまで押さえた。
だが敵が現れる。しかもある種、雪乃にとっての天敵が。
この敵が現れて、上手い具合に進めることができなくなったところで第十二巻は終了。前編のような感じという説明を御理解いただけただろうか。第十三巻の感想で盛大に語りたい。