工大生のメモ帳

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やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。⑧ 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

生徒会選挙

情報

作者:渡 航

イラスト:ぽんかん⑧

ざっくりあらすじ

後味の悪さを残した修学旅行を終え、日常に戻った奉仕部。そんな折、奉仕部に生徒会選挙に関わる依頼が持ち込まれる。お互いのやり方に納得できないまま、奉仕部の三人はそれぞれのやり方で依頼に挑むことに。

感想などなど

葉山隼人のいるグループの現状維持のため、幻想的な風景広がる竹林の真ん中で、海老名に告白した比企谷八幡。そんな彼を見る雪ノ下と由比ヶ浜の視線は冷たい。上手く言語化できないモヤモヤを心に抱えつつ、一見すると何も変わっていない日常が続いていく。

冒頭からして比企谷八幡による捻くれ独白は絶好調。何か一言を発する度に、まるで何かをごまかそうとしているかのように、何かに言い訳をしているかのように、言葉を弄して、小町曰く『どうしようもないこと』を言い続ける。

あまりに目が死んでいて、いつも以上にどうしようもない兄に対して、小町は妹らしくポイントの高い優しい言葉をかけるも、「しつこかったしウザかった」という一言で一蹴する八幡。千葉の兄妹らしくシスコンであるはずの兄らしからぬ発言に、小町だけでなく読者も驚きを隠せない。かくして奉仕部内だけでなく家庭内での居場所すら失っていく。居場所がないことには慣れているぼっちエリート八幡も、それは少しばかり堪える模様。

そんな悪いことが重なる状況では、さらに悪い状況が重なっていくらしい。心が疲れている状況だと、自分にとって都合の悪いことにしか目がいかないため、悪いことが起きまくっているように見えてしまう説を提唱しているブログ主。この作品においては……ふむ。

本作で取り上げられる悪い状況を打破する方法に正解はないのだろう。また、時が経って後から振り返ると、大したことではなかった記憶として風化し忘れられるような内容であるはずだ。しかし、それは当事者である彼・彼女達には当てはまらない。必死こいて自分なりの答えというものを導き出していく。本作を読んで冷めた感想を持ってしまう自分は、大人になってしまったのかもしれない。

 

精神的に滅多打ちにされている八幡の所属する奉仕部に舞い込んだ依頼は、一言で説明すると『生徒会選挙に面子を保った状態で落選したい』というものである。

依頼主は清純派ビッチこと一色いろは。清純派という言葉は褒め言葉というよりも、「清純に見えて実は……」という裏の意味を含んでいることに、日本語としての奥深さを噛みしめる昨今、いろはも男心をひょいひょいと手軽にお気楽に弄んでいた。数々の男子高校生が勘違いして一気に距離を詰めようとして死んでいく様が容易く想像できる。

可愛さを自覚している女子というものはつまり、自分がどのようにすれば可愛いと思って貰えるのかを理解しているものだ。それは男子からの評価は高くなるのは必然と言える。

しかし、同性からの評判というものは決して高くないのであった……男に媚びているとか、ぶりっこアピールがキモいとか、まぁ、色々と理由はあるのだろう。正当性は置いておくとして。

そんな一色いろはを嫌う女子達は、彼女を罠に掛けようとする。その罠こそが『一色いろはを生徒会選挙に勝手にノミネートさせてやれ』というものであった。

言葉では簡単に言えるが、そう簡単な作業ではない。生徒会に立候補するには、まず三十人以上の推薦人が必要になってくるのだ。つまり一色いろはを勝手に立候補させようとするならば、彼女に対して悪意を持って立候補させてやろうという作戦に賛同する人間が三十人以上必要なのである。

しかし、一色いろはの場合は三十人以上の悪意を持った人間が集まってしまった……え、何コレ恐い。そんな状況になっても尚、可愛さアピールを欠かさない一色いろはも恐いが。

このままだと生徒会長になってしまう。しかし、一色いろはとしては生徒会長になりたくない。このまま悪意を持った面々の狙い通りになるのは嫌だし、サッカー部のマネージャーとしての仕事を続けていたという気持ちもある。言い忘れていたが彼女は一年生、生徒会長として学校を引っ張っていくという覚悟も経験も知識もない。

だからこそ『生徒会選挙に面子を保った状態で落選したい』という依頼を奉仕部に持ちかけた。

 

さて、この依頼を解決するにおいて重要なポイントは『面子を保つ』ということになる。なぜなら落選するということ自体はとても簡単だからだ。

例えば。

選挙前の面接で「あっ、こいつにやらせちゃ駄目だ」と思わせれば良い。とりあえず「こんな生徒会長は嫌だ」というネタを十個ほど箇条書きにして、それを全て試して見ればいい。ポイントは冗談で言っているように隠しきれていない笑みを浮かべるのではなく、真顔で真剣に言うことだ。

例えば。

生徒会をばっくれればいい。幸いなことに、この奉仕部にはA級バックラーとして、数々のバイトをばっくれてきた比企谷八幡という男がいる。彼の言葉に従っていれば生徒会どころか人間社会からばっくれるということも容易いだろう。

……まぁ、当たり前だがこれら全ての案は『面子を保つ』という条件を満たすことができない。

「競合相手に勝って貰えばいいやんけ!」とお思いの方、申し訳ない。提示する情報が少なかった。今回の生徒会選挙において立候補した生徒は一色いろはだけなのである。つまり、このまま行けば半自動的に彼女が生徒会長になるのであった。

 

さて詰みな状況だが、八幡は一つの解決策を提示する。「応援演説が原因で落選すればいいのでは?」と。なるほど、理にかなっている。落選したとしても、「あの応援演説してくれ人がキモくて~」と言うことができれば、一色いろは ”の” 面子は保たれることになる。

で、誰が応援演説をするのかと言えば……まぁ、比企谷八幡ということに。

しかし、それを拒む者がいた。由比ヶ浜結衣と雪ノ下雪乃である。

こうしてただでさえ壊れかけていた奉仕部の関係性は、さらに歪んでいくことになる。どのようにして依頼を解消するか? 奉仕部の三人が、それぞれの方法を考えて挑んでいく。

個人的に、平塚先生の「本当に守りたい人が出来たとき、君の方法では救うことができないよ」という八幡に向けて言った台詞が印象に残っている。第七巻にて一人がただ傷ついて得た現状維持は、葉山達を救ったかもしれない。しかし、罪悪感を伴う幸せは本当に幸せなのだろうか。

少なくとも、葉山隼人はただ今の幸せを享受することはできなかったらしい。この第八巻で葉山隼人に対する印象を大きく変えたという人は多いのではないだろうか。

本作を読み進めていく上で、登場人物達の考えというものを理解することを求められる。しかし八幡の主観で描かれていく文章は、それを分かりにくくする。その文章と、色々なものごとに対してどうしようもない言い訳をする彼の心情を、重ねて考えてしまうのはブログ主だけだろうか。どうしようもないことを考えてしまうのは、彼だけでなく読者も同じなのかもしれない。

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