工大生のメモ帳

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僕が七不思議になったわけ 感想

【前:な し】【第一巻】【次:な し】

※ネタバレをしないように書いています。

七不思議はありますか?

情報

作者:小川晴央

試し読み:僕が七不思議になったわけ

ざっくりあらすじ

影の薄い中崎夕也は、学校の七不思議を司っているのだというテンコにお願いされ、顎関節症になって引退を余儀なくされた理科室の骸骨の代わりに七不思議として名を連ねることとなってしまう。そんな彼はストーカー被害に遭う朝倉さんのことを知り……。

感想などなど

皆さんの学校には七不思議というものがあっただろうか。

大人になって必死に学生時代を思い返して見るも、学校に七不思議はなかったように思う。ただトイレの花子さんがいるかもしれないという噂を聞いた記憶や、階段の段数を意識して数えて、上りと下りで変動していないことに安堵したりといった記憶や、二宮金次郎の像がそもそも学校にないということに首をかしげたりした記憶はある。

ブログ主にとって七不思議という存在はその程度の認識であるが、本作の舞台である清城高校には、きっちりとした七不思議があった。

  1. テンコさん
  2. トイレの花子さん
  3. 霊界の吐息
  4. 十三階段
  5. 赤目の鳥
  6. 呪いのメール
  7. 理科室の骸骨

ただ最近になって、七番目の理科室の骸骨さんが顎関節症にかかり、七不思議を引退してしまったらしい。七不思議に引退という制度があるということが初耳であるが、科学技術が進歩し、学校の環境も様変わりしていく。それに対応したアップデートというものが必要なのかもしれない。

さて、七不思議が六不思議になって困るのが七不思議の総括を担っているテンコさんである。この人……もとい霊はひょうきんな性格で、ノリと勢いで七不思議を取り仕切っている節がある。そのノリによって七不思議の七番目、骸骨の席に座ることになったのが、本作の主人公・中崎夕也である。

そうして新しくできあがった七不思議は下記である。

  1. テンコさん
  2. トイレの花子さん
  3. 霊界の吐息
  4. 十三階段
  5. 赤目の鳥
  6. 呪いのメール
  7. 三年B組 中崎くん(仮)

七不思議の引き継ぎというのは、どうやら卒業式の時にしか行えないらしい。物語が始まるのは入学式を終えた春真っ盛り。残り一年間は不在の席を埋める仮の不思議として名を連ねることとなる。

そんな七不思議・中崎くんは他の七不思議の力を借りつつ、学園生活で起こる厄介事を解決していくこととなる。

 

物語は春・夏・秋・冬……というように季節を巡る形で進む。ミステリチックな展開もありつつ、助けたヒロインとのラブロマンス的な展開も交えながら、七不思議としての生涯が描かれていく。

例えば。

春、七不思議として名を連ねて早々の話である。三年B組の出席番号一番。保健委員を担っている女子高生・朝倉さんは、謎の怪メールに悩まされていた。

内容は屈折した愛情が書き連ねられていたり、誹謗中傷であったり、「綺麗な顔に傷をつけたい」といった犯罪予告めいたものであったり。それはそれは酷い内容であり、彼女はそれを誰にも相談できずにいるようだった。

そんな彼女の苦悩を、『呪いのメール』という七不思議の力を通して知ってしまった中崎くん。

この『呪いのメール』というのは学校の生徒のメールアドレスをハックし、中身を盗み見ることは勿論、怪メールを送ることまで可能という優れもので、それを駆使して犯人の特定から懲らしめまでを一挙に行い締め上げることになる。

他にも、『赤目の鳥』であればドローンのように空から学園中を見渡して監視することができたり、『十三階段』であれば指定の階に閉じ込めることができたり、『霊界の吐息』は対象者を気絶させたり……割と使い勝手が良い七不思議達の力を駆使していく。

 

この作品は一見すると繋がりのない事件や、意識していなかった情報が、後から繋がっていく構成を魅力としてあげたい。想像だにしない角度からパンチを食らいながら、最後には綺麗に締めていく。

先ほど説明した春に起きた怪メール事件。そこで中崎くんは朝倉さんを救った訳だが、どのように救ったのかは説明する訳にはいかない。「自分は七不思議の一つで、他の七不思議の力を借りたんです!」と力説したところで納得できるはずもないであろう。

しかし彼女の中には、彼に救われたのではという疑念は残り続ける。その疑念がつもりにつもっていくと同時に、彼の彼女に対する想いも変化していく。このラブロマンスのせめぎ合いに、七不思議というアクセントが加わっている訳だ。

ラスト、それぞれが抱えていた想いや過去から卒業していくシーンはとても美しかった。

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