※ネタバレをしないように書いています。
強い悪い人でありたい
情報
作者:佐藤真登
イラスト:ニリツ
試し読み:処刑少女の生きる道 5 ―約束の地―
ざっくりあらすじ
処刑人「陽炎」に連れて行かれたアカリを追いかけ、聖地までやって来たメノウ。アカリを殺すために塩の剣の確保に動くが――。
感想などなど
アカリが自分を助けるために、何度も回帰を繰り返していることを知ったメノウは、アカリをきっちりと自分の手で殺す覚悟を決めた。そんなメノウと相対することになるのは、彼女の師匠である「陽炎」だ。
彼女の強さは伝説として語り継がれる程であり、マリンと万魔霧を圧倒するほどだ。メノウがいくら才覚に溢れた処刑人といえど、彼女を越えることは簡単ではない。それに彼女はメノウの師匠として、少なくない時間を共にしてきた。陽炎はメノウの弱点や癖を知り尽くしている。
しかし、アカリを自らの手で殺すためには「陽炎」を越えなければいけない。
この第五巻ではそんなアカリと陽炎の戦いと、その裏で暗躍する万魔霧やモモ、サハラといった面々の視点が複雑に入り乱れていく内容となっている。時間を空けて読むと、分からなくなることだけ忠告しておこう。
ただでさえ登場人物は増えた。誰と誰が敵対し、それぞれがどんな目的を持って動いているのか。きっちり把握しているという方は、安心して第五巻を読み進めて欲しい。「サハラ……誰だ?」という方、「アーシュナが何でここにいるん?」という方、「カガルマってただの変態だっけ?」という方は第三巻くらいから読み直した方が無難だ。
ちなみにアーシュナが聖地に来た理由は、ちゃんと読んだ上で良く分からない。
「陽炎」を含めた第一身分の上層部は、アカリを人災化させようとしている。人災となった純粋概念は、星に散らばって皆が使える新たな概念として定着させられる。つまりは【時】はそういった新たな概念にするだけの価値があると判断された訳だ。
また、これまで異世界人が召喚されてきたのは、そういった当たりの純粋概念を欲するが故であり、これまで狙って人災とされてしまった迷い人も数多くいるのだろうと推測される。
しかし人災は、世界を滅ぼしかねない危険もある。かつての【魔】や【器】といった純粋概念が引き起こした事件の大きさは、これまでのエピソードで幾度となく描かれていた。
それに異世界人は簡単に制御できるものでもない。アカリは【世界回帰】を繰り返し、小さくない影響を世界に及ぼし続けた。【魔】や【器】といった四大人災を起こした4人の異世界人は、現世に戻るために世界を犠牲にしようとまでしている。
そんな人災に対抗するための巨大な結界が、第一身分の人々しか住むことの許されていない聖地だ。この中には人災が(許可もなく)入ることはできず、純粋概念の力を阻害するような効果も兼ね備えている。
そんな聖地でアカリを人災として処理する――過程がどうであれ、これもまた処刑であろう。そんな時、聖地にはモモやアーシュナ、マリンやカガルマ、サハラといった超危険人物達が一同に介してくる。
人災から身を守ることができる安全地帯『聖地』が、第五巻の短い時間で戦場と化すことになる。
まず最初に大暴れするのは万魔霧だった。こいつの目的の物は、聖地の奥にあるらしい。かつて現世に戻るために人災となった彼女が、この聖地に求めるものとは一体なんなのか。
その次――正確には万魔霧と同タイミングだが、【器】の力を右腕に定着させたサハラが、モモに向けて銃口を向ける。メノウのために何かできないか必至に考えるモモと、何者かになりたいサハラの戦いは見応えのあるものだ。
そしてメインは陽炎とメノウの対決だ。陽炎は処刑人としての一つの完成形に達したとすると、メノウは今まさに、処刑人としてのあり方、生き方を模索している。そんな彼女はこの第五巻で、大切な答えを見つけた。
その答えが正しいのか……それはこれから先の物語が教えてくれることだろう。
二転三転する場面と展開が目まぐるしい第五巻であった。