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嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん2 善意の指針は悪意 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

幸せのために迎える不幸

情報

作者:入間人間

イラスト:左

ざっくりあらすじ

御園マユ。みーくんであると嘘をつく××。二人はそれぞれ違う理由で傷を負い、病院に入院する。そこでまーちゃんは言うのだ。「死体を見つけた」と。

感想などなど

残酷な話だと思った。この残酷、という言葉には色々な意味を込めている。身体を解体する連続殺人の残虐さを指してもいるし、御園マユが壊れてしまった悲惨な過去を指した言葉でもあるし、そんな彼女に対してみーくんであると嘘をついて愛を享受する××に対して向けられた言葉でもある。

しかしまーちゃんはみーくんのことを慕い、嫉妬までする程度には幸せだった。一方、みーくんを語る名前の登場していない彼自身も、彼女から向けられる視線や行動に幸せを感じていたはずだ。もしかすると、そう信じたいというだけの彼の嘘かもしれないが。

とにかく。第一巻にて本物のみーくんにして連続殺人犯は死んだ。その過程で負傷して入院したみーくんと、一緒に入院するという動機の果てに自ら自傷したまーちゃんとの入院生活がスタートする。

この第二巻で起こる一連の事件を理解した今、思うことは『何という運命の悪戯か』ということだ。まず作中に登場する人物は、一人の例外もなくヤバい奴らで、一見関わりのないように思えた人物達にも繋がりがあって、それらが一つの偶然によりややこしい状況へと誘われていく。

 

そんなややこしい状況の中心には、一つの死体がある。生きていた頃の彼女の名前は名和三秋。みーくんとまーちゃんの入院する病院に、同じく入院していた患者の一人だ。

ある日、彼女は突然の失踪。松葉杖がないと移動できないにも関わらず、病室には杖が残ったままだったことから事件性を疑われた。

死体が見つかったことからも分かる通り、どうやら失踪事件ではなく殺人事件だったようだ。しかもまーちゃんは死体が運ばれていく現場というのを目撃し、あろうことか尾行して、死体を見つけて、そのまま帰っておやすみなさいしたらしい。

死体を見てもたじろぎもせず、通報すらしなかった彼女はやはり壊れているのだろう。しかも死体を調べようとするみーくんに対して、嫉妬の感情を剥き出しにするのだから恐ろしい。

その後、まーちゃんは誰かの襲撃を受け、ただでさえ傷を負っていたというのに、さらに傷を負うことになる。事態は想像するよりもヤバい状況なのかもしれないと気付かされる。

 

そんな中、さらにみーくんを困惑させる人物が現れる。まーちゃんとこのような関係に陥るより一年ほど前、付き合っていた長瀬透がお見舞いにやって来たのだ。これまで連絡を取り合うこともなかったにも関わらず、唐突にやって来て、一年前の話や二人の関係性(長瀬とみーくんの関係性や、まーちゃんとみーくんの関係性について)色々な話をするが、まーちゃんは嫉妬するとナイフを情け容赦なく取り出してくることを考えると、今の状況は色々と不味い。

まぁ、長瀬がやって来たのはみーくんに会うだけでなく、同じく病院に入院しているという妹のためでもあるようだが、そんなことはどうでもいい。まーちゃんにはそんな正論だろうと言い訳だろうと通用しない。

時折挟まる長瀬とみーくんの回想は、それなりに幸せそうではあった。口が達者な二人の言葉の応酬は、見ていて素直に楽しい。あくまで過去の話ではあるが、二人は確かに愛し合っていたのだろう。

まぁ、みーくんと付き合えるという時点で、彼女も狂気の才はあったということなのだろうが。

 

第二巻のサブタイトルは『善意の指針は悪意』となっている。読み終えると「なるほどな」と頷きざるを得ない。本作で描かれる一連の事件というものは、善意というものが一つの起点となっている。

読み終えた人は今一度思い返して欲しい。善意にも色々な形がある。お願いされたことに答えてあげることは間違いなく善意であるし、困っている人を影ながら支えてあげようとすることも善意だと言える。守ってあげたい、助けてあげたい、願いを叶えてあげたいという欲求は、一歩間違えると悪意として牙を向く……そういった事例は、現実にもたくさんあるのではないだろうか。

善かれと思ってしたことも、相手にとっては悪意かもしれない。なにせ相手の気持ちなんて分からないのだから。

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