※ネタバレをしないように書いています。
至高の騙し合い
情報
作者:迫捻雄
試し読み:嘘喰い 10
ざっくりあらすじ
ラビリンス二回戦でわざと負けて屋形越え惨敗のアリバイを盗ませた貘。それに対して、さらなるラビリンス勝負を望んだ両者は、ラビリンス三回戦へと突入する。
感想などなど
「嘘喰いは間違いなく負けるぞ」
立会人・門倉のこの台詞通りに、嘘喰いが負けるとは思わなかった。彼の不適な笑み、不遜な態度、そのどれもが彼が勝つことを示しているようにしか見えなかった場面からの嘘喰いの負けは完全に予想外だった。
そして嘘喰いは、負けることで屋形越え惨敗の日のアリバイを奪わせたという事実が明らかになった時、この漫画は傑作だと確信した。門倉の台詞のミスリード、負けることで相手に屋形越え惨敗を押しつけるという発想。興奮冷め止まぬまま、第十巻を読み進めていくこととなる。
現状の振り返りをしよう。
第一回戦は貘の勝利。大金をせしめた。
第二回戦は雪井出の勝利。しかし、屋形越え惨敗の思い出が雪井出のものとなった。
つまり雪井出はボロボロである。このままだと大金を払った上、屋形越えで負けたのは自分ということになって、いつ殺されるか分からない日々を過ごすこととなる。
このままでは引き下がれない。
それは貘としても同じであるらしかった。二人はもう一回戦することとし、貘は負けたら屋形越え惨敗の思い出を受け取ることを約束し、雪井出は10億と梶が賭けたアリバイとラビリンスに関わっている警察関係者の名前を出すこととなった。
雪井出の足下を見て、絞り出せるだけの利益を得る機会を作り出した貘。
この三回戦は絶対に負けられない。
雪井出がこれまで勝ってきたのは、ラビリンスを作るために壁を書き込む紙に仕掛けがあったのだ。油性ペンで書き込むと、その内容がもう一方の紙に写り、雪井出は相手の書いた迷宮が分かるように細工が施されていたのである。
第一回戦はそれを利用し、貘が勝利した手口を雪井出は推理する。そこで同じ手は使われないように手を打ち、絶対に勝てる場を作り出した。雪井出もほくそ笑む。
だが、その上を行く貘の策。雪井出も思わず、
「す……凄い……」
「微かな疑念も持たれぬように徹底した手口……」
とべた褒めするほどだ。是非とも鮮やかな勝利を見て欲しい。
そんな賭け事勝負も楽しいが、それと同じく展開されていく雪井出の秩序を何よりも重視するようになった過去も描かれていく。なんと彼の父もラビリンスにてアリバイを奪い続け、さらに上の人間の身代わりで罪を被ったという狂人だということが明かされた。
今の彼を突き動かすのは、秩序を重んじる父の姿。迷宮を解いていくことで秩序を正していくことができるという信念であった。そんな彼に対して突きつけられる貘の言葉が最高だった。
この勝負、一人の男を救うための戦いだったような気がする。
そうして勝利した貘の前に、新たな敵が二人現れる。
一人は天真征一警視庁。もう一人は密葬課に所属する屈強な男・箕輪。
二人は雪井出が負けるということを予見し、負けた際の損益である10億を ”殺してでも” 回収するために来たらしい。勝ったのに殺されたのではたまらない。そんなピンチな状況に駆けつける元廃ビルの悪魔・マルコと、金を守るために中立の立場として戦ってくれる門倉。
拮抗した状況下、新たな賭け事をすることで場を収めようという提案に乗って、
マルコと貘 VS 天真と箕輪
という対決が幕を開けた。場所は警視庁の地下にあるという迷宮……ラビリンスの次に迷宮とはお洒落というか何というか。肉弾戦と頭脳戦が上手く噛み合ったゲームが見られそうで期待に胸が膨らむ幕引きであった。