※ネタバレをしないように書いています。
至高の騙し合い
情報
作者:迫捻雄
試し読み:嘘喰い 13
ざっくりあらすじ
立会人・門倉の提案により始まった、警視庁地下にある迷宮を舞台とした新たなゲーム「ラビリンス」。出口へと向かう中、いよいよ貘と天真が鉢合わせる時が来た。どちらが迷宮の魔物たるケンタウロスなのか? 裁きが下される。
感想などなど
「ラビリンス」も後半と言って良いだろう。貘との騙し合いで負けた箕輪は、その後マルコに倒された。遺伝子レベルで刻まれた化物の素質から繰り出される圧倒的な密度の筋肉は、マルコの暴力の前に散った。
さて、残すは天真だけである。
天真は元いた部屋から動かないようにしていた。これまで誰とも遭遇しないように動いていた彼が、いよいよ動き出した。その動きに迷いはない。まるで一つの部屋に籠もっていながら、迷宮の全貌を暴いてしまったかのように。
そして天真が辿り付いた部屋にいたのは、 ”嘘喰い” 貘。
いよいよである。これまでのゲームで、それぞれが張ってきた勝つための罠の全貌が明かされる待望の瞬間が。
そのゲームが行われている間、とある人物による妨害が行われていた。門倉の知り合いであり、警視庁側についている南方は、この閉ざされた迷宮内に即死級の罠を仕組んでいたというのだ。
コンクリート製で機密性の高い室内に扉、前部屋に張り巡らされたパイプ。それぞれの部屋は水で満たすことができ、そして排水することができる。それを利用することで、一度室内を水で満たした後、一気に排水することで、室内の酸素濃度を急激に下げることができるのだという。
そうして出来上がったトラップルーム。その部屋の扉を開けた者は、急激に変化する酸素濃度により死に至る。これまで偶然にも誰も通ることのなかったその部屋に、最初に手を掛けたのは、斑目貘であった。
だが彼は死んでいない。恐ろしいまでの虚弱体質でありながら生き残った……ことが凄いと言いたいところだが、斑目貘の恐ろしいところはそこではない。そうして死にかけた状況においても、それを利用して相手を騙してやろうというギャンブラーとしての生き様が、化物なのだ。
その彼の徹底して仕組んだ罠の数々、必然を積み重ね、本当の偶然すらも利用し尽くしての勝利を、是非とも噛みしめて欲しい。
見よ。無様に地を這い、靴を嘗め、これまで自分より下と見下した者達を殺してきた男の最後を。
この迷宮には化物しかいない。しかし、そのなかでも上に立ったのは――。
勝ったのは斑目貘と言いたいところであった。しかし、彼には目先に飛びつけば手に入る勝利よりも優先すべきことがあった。
彼の目の前にはマルコの死にかけた姿があった。彼を救うか、それともゴールに手を掛けるか、その二択を迫られた時、彼の取る道は決まっている。そこに迷いはなかった。
その偶然を見逃さないと、目を爛々と輝かせた天真。
ゲームはまだ終わらない。最高のギャンブルゲームであった。