※ネタバレをしないように書いています。
至高の騙し合い
情報
作者:迫捻雄
試し読み:嘘喰い 21
ざっくりあらすじ
タワー頂上、一度目の入力に失敗した捨隈達。その入力したナンバーを盗み見るように指示を受けていたマルコ。一階を出てしまったために、捨隈と貘の殴り合いも起きてしまう。
感想などなど
タワーでの死闘は捨隈と貘、二人だけの一騎打ちではない。貘にはマルコという相棒がいて、捨隈には???という相棒がいる。SATがタワーに突入しようとしているのを食い止める賭郎との戦いもありつつ、何故かタワーにレオがいるという不思議ポイントが状況を更にややこしくさせる。
タワーで行われる今回のゲーム、SATやレオ達の第三者の介入がなければシンプルなゲームだ。紙とペンを用意して表を作り、互いにどの数を宣言し、何が失敗だったのかをまとめていけば、読者もゲームに参加しているような気分になれる。
しかし、SATやレオ達といった存在がゲームに介入し、それぞれの思惑で動くものだからややこしくなる。レオはハングマンでマルコ達を助けてくれた過去があり、勝手に貘陣営だと思っていたが、今回は貘たちの敵として割り込んでくることで、暴力の伴った頭脳戦という側面が、強く押し出されている。
そんな第二十一巻の冒頭から貘は片目を潰されるという衝撃展開からスタートしていく。マルコは捨隈の相棒???からの猛攻を凌ぎ、途中で介入してきたレオの攻撃もギリギリでいなしながら逃走を図る。自分がいなくなれば、暴力で圧倒的に劣る貘が二階以降に進み番号を押すことができなくなることは分かりきっていた。
そんなことを考えていたのに、貘は捨隈と共に二階へと出ており、そこで片目を潰されていては敗色が濃厚となってくる。しかもマルコは貘に依頼されていた『捨隈達が入力した番号を見る』という任務を達成できていない。
状況は最悪、貘の第一ターンが終わるまで玉の数を数えないという策は上手く嵌まったのかもしれないが、それにしたって悪運に悪運が重なり過ぎているようにしか思えない。
ここからさらに状況は混沌と化していく。
捨隈の入力させた数字は間違っていた。つまり、これから数字を当てようとした場合には、再びドティの部屋に入り、数字を当てるゲームに挑むしかない。つまり、片目を潰された貘は、さらに血を抜かれるということを意味する。
フラフラとした足取り、潰された目から血が流れ落ちる惨状は見るも無惨だ。この状態からゲームを見た者は、貘が負けていると思うことだろう。実際はどちらが有利不利かの判断は難しい。
まず捨隈は数字入力のチャンスを1回使ってしまっている。もし数字が分かったとしても、捨隈自らが数字を入力しに行かなければいけない。ここでマルコなり、誰かの妨害が入ってしまえば入力はできないということだ。
貘陣営は、マルコと貘がそれぞれ数字を入力することができる……いや、待て。数字を入力するには網膜認証を通過する必要がある。片目を潰された貘に、その認証をくぐり抜けることはできるのか。
……あれ、もしかして貘って想像よりもピンチなのか?
さらに捨隈の全く表情の変わらない鉄仮面は、貘の揺さぶりが全く通用しない。貘は彼が人を殺したことがあること、日本語は達者だが中国で生まれ育ったということを見抜いていた。その観察眼は見事だと言いたいところだが、その情報が数字を当てるのに繋がるのかと言われれば、読者程度の頭脳では思いつかない。
貘にこのピンチをひっくり返す策はあるのだろうか?
この作品において注目すべき戦いはまだある。
SATと賭郎だ。賭郎は互いに強者を一人選出し、戦わせることでタワーに入場を賭けたゲームが執り行われていた。SAT側の代表は、密葬課所属の嵐堂公平。対する賭郎の代表は掃除人・夜行丈一。この暴力のぶつかり合いが、迫力ある画で描かれていく。そしてその裏では、お屋形様と警察庁のTOPとの間での賭けも同時進行していた。
これまで良いところがあまりない掃除人・夜行丈一に見所はあるのだろうか。
そして零號を賭けた夜行妃古壱と切間撻器との戦いも始まろうとしていた。戦いはハンカチを落とすところから始まっていくのだが、その時からピリピリとした緊張した空気が流れる。
それぞれ見逃せないシーンが多すぎて、何度も見返すことになる第二十一巻であった。