※ネタバレをしないように書いています。
至高の騙し合い
情報
作者:迫捻雄
試し読み:嘘喰い 24
ざっくりあらすじ
カラカル VS マルコ、密葬課 VS 立会人、そして捨隈 VS 斑目。それぞれの対決がいよいよ終着。ゲーム「ドテイ」を制す者は誰か?
感想などなど
指摘するのはあまりに遅いかもしれないが、この「嘘喰い」という漫画は、連載中に絵の巧さが劇的に向上していく。特に「嘘喰い」という作品の根幹ともいえる ”暴力” シーンは、その迫力を増している。
この第二十四巻の前半は、カラカル VS マルコ、密葬課 VS 立会人、それぞれの決着が描かれていく。前者はタワー最上階から落下しながら、後者は車の中というそれぞれ特殊な環境下での戦闘が迫力満点に描かれていく。
タワー最上階から落ちていきながらの戦闘は、途中で鉄筋を掴んで復帰したり、ロープをお互いに掴んで(絡まってというべきか)一緒に落下しながら、といった地面から足を離した状態で殴り合うといった状況は緊張感に満ちている。
マルコは前巻で廃ビルの悪魔ことロデム状態になり、カラカルもまた裏の人格で戦っている。そのためだろうか。まるで痛みなんて感じていないかのように、顎が外れた顔面で、骨が折れた腕で相手を殴っている。相手を殺すことしか考えない狂喜に満ちた暴力が、すっかり技術が向上した作画で描かれるのだから、面白くないはずがない。
一方、車の中での戦闘は高い技術同士のぶつかり合いといったような、器用な戦闘が描かれていく。車の中という狭い場所でありながら、弾丸を指ではじいて攻撃、発煙筒、座席を蹴り飛ばす、アクセルとブレーキ、エアバッグ……その場にあるものは何でも使うというゲームとはまた違った頭脳戦が行われていた。
このそれぞれの決着が、メインである捨隈 VS 斑目にも大きく関わってくるのだから面白い。
ドティというゲームを理解するに辺り、Excelを使って表を書いたりした。作中でも観客者達が同じようなことをし、二人の持っている球の合計値の割り出しは佳境となっている。それによると候補は三つ、獏も捨隈もそれぞれ自分が持っている球数を知っているのだから、もう入力すべきパスワードは分かっていることになる……はずだった。
甘かった。このゲームは、表にまとめただけで理解した気になってはいけないということを、まざまざと見せつけられた。
このゲームは二人が持っている球の合計値を当てるというシンプルなものだ。当てるための手段として、ドティという部屋で命を賭けなければ情報は集められない。そう思っていた読者は、ブログ主も含めて思考が浅はかである。
二人の合計値を知る手段はまだまだある。
タワー最上部にあるパスワード入力装置に数字を入力することも、数字を探る手段になり得よう。そのために獏は最初に捨隈が押させたパスワードの情報を求めた。マルコに鞍馬組と交渉させまでして、情報を欲したのは相手が持っている情報のアドバンテージを埋めるため。
一回でも正解パスワードを入力し、パスワードを変更することができれば大金を手に入れることができる。このパスワード情報を入手したのは第二十二巻。ドティではさらに情報を集める。
もしも両者の持っている情報が同じであれば、後はどちらが先に入力できるかの勝負になってしまう。はっきり言って、それは頭脳戦と言えるのだろうか。ただの体力勝負になってしまえば、獏は負けるしかない(マルコがいるとはいえ)。
相手と自分の持っている情報は同じだとしても、相手よりも一歩先を進むにはどうすればよいか。どのように相手に自分の球数を誤認させるか? そこがこのドティゲームの本質だと気付くのがあまりに遅かった。
このゲーム、数字を表にまとめて理解するだけでは勝てない。数字の裏にある相手の思惑を看破した者が勝つガチの騙し合いだ。それを理解した時、このゲームの面白さが良く分かった。
よくできたゲームだった(あと鞍馬組の姉さんがかっこいい)。