※ネタバレをしないように書いています。
至高の騙し合い
情報
作者:迫捻雄
試し読み:嘘喰い 26
ざっくりあらすじ
蜂名という名前で潜伏するお屋形様は、栄羽立会人とコンタクトを取るために防衛省・大船の家に転がり込んだ。そんな中、大船の元に試作中の新型国産対艦ミサイル「XASMI3」の密輸に絡んでいる男の情報を掴んだということで、その捜査に蜂名も協力することとなる。
感想などなど
ここからしばしの間、斑目獏はお休みとなり、蜂名(=お屋形様)が記憶を取り戻すために栄羽立会人とコンタクトを取るために奮闘する物語が始まっていく。
栄羽がすでに死んでいるということを、いつ彼が知るのか?
お屋形様を追う賭郎の包囲網を、どのように掻い潜るのか?
気になるポイントはたくさんある。そんな中、蜂名を家に泊めて色々と良くしてくれている防衛省・大船の元に超重要任務が舞い込んだ。ここが少々ややこしいので、整理してみよう。
大船は現在、新型国産対艦ミサイル「XASMI3」の密輸を阻止すべく動いている。その捜査の一環で目を付けていた地下銀行に、一億円の資金洗浄を依頼しようとする者がいることが判明。
この依頼者が、密輸に絡んでいる可能性があるとして、これからコンタクトを取って情報を探ろうという流れである。その捜査に協力することとなった蜂名、代わりとして条件を提示しているが「その内分かる」とだけ言って中身をぼかしている。栄羽立会人の居場所特定に協力して貰うとか、そういうことなのだろうか?
まぁ、いい。とにかく今すべきことは、密輸に絡んでいる犯人から情報を絞り出すことである。
この捜査における問題は、上からの応援が期待できないということ。ミサイルの密輸という大事件の裏に、とんでもない大物がいる可能性が同時に浮上し、その者に秘密裏に捜査を進めるため致し方ない処置だった。
ついでに蜂名は賭郎に追われる身、特定されるまでは時間の問題である。急がなければいけない。ということで蜂名が取った行動は、まさかのギャンブル勝負に引きずり込んで吐かせるという力業だったのだから、さすがは賭郎のトップというべき所業である。
依頼人のことは前巻で明かされている。旧防衛施設庁の元職員・城道。ファミレスにて大量の料理をテーブルに並べる大食漢で、どうやらギャンブルで金を大量に使い込んでしまっているらしい。
そこに蜂名はつけ込んだ。
回収業者を装い、金を支払うように仕向けつつ、しかし金を支払えない城道が自らゲームを企画するような流れを作り出した。そこで城道が提案したゲームは『コインの幅寄せゲーム』だ。
場所はファミレス。大した道具も準備もない状況でできる頭脳戦だ。
用意するものは紙とペン。そして100円玉2枚と、500円玉2枚。サイコロの代わりとしてコーヒーフレッシュを用意する。
紙には10個のマス目と5個のマス目を書く。そしてそれぞれの端に、100円と500円をそれぞれ配置する。今回のゲームでは、500円が城道、100円が蜂名とする。先攻/後攻を決め、交互に自分のコインを指定された数だけ動かし、相手のコインを動けない状態にした方が勝ち……文章で書くと訳が分からなくなりそうだ。
○||||●
○|||||||||●
上記のような感じで、5マスと10マスを書き、○と●のようにコインを配置。それぞれ自分の番になったら、コーヒーフレッシュを一つ引き、その裏面に記載された数字の数分だけコインを移動させる。コーヒーフレッシュがサイコロの代わりという訳だ。
なのでコーヒーフレッシュの裏側に「3」と書かれていた場合は下記のように動かすことができる。
○||||●
|||○||||||●
これを交互に繰り返して、相手のコインを動かせなくしたら勝ち。
|||○|●
||||||||○|●
このようになったら○の勝ちということになる。お分かりいただけただろうか。
他にも細々としたルールはあるが、その辺りは読んで確認して貰うとして。
このゲームには必勝法がある。そもそもゲームを提案したのは城道であるし、そういう仕掛けがあることは容易に想像できた。それは同時に奢りとなり、彼を追い詰めることとなる。
城道がこのゲームで勝つとすれば、「この必勝法は本当に俺が思いついたものなのか?」「このゲームは本当に俺が思いついたものなのか?」と疑う必要があった。しかしそれは無理である。自分の思考を疑うという芸当、できる人間がいたら会ってみたい。
計算し尽くされたお屋形様の計画、その掌の上で踊らされていたに過ぎなかったと気付いた時の衝撃は、読んでみないと理解できない。こんな記事を読んでいないで、さっさと買って読むことをお勧めする。