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【漫画】嘘喰い29 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

至高の騙し合い

情報

作者:迫捻雄

試し読み:嘘喰い 29

ざっくりあらすじ

密輸を行っている船の船長・レーシィと、密輸の証拠を掴もうと画策する大船によるゲーム「バトルシップ」がついに決着。船に残された者達、勝者、敗者達の運命やいかに⁉ そして、記憶を取り戻すため約束の場所へと向かった蜂名の前に、予想外の人物が……。

感想などなど

レーシィと大船のゲーム「バトルシップ」において、一度選択したマスを、もう一度選択しようという場面で終わった前巻。レーシィに残っているのは潜水艦が二隻、これをこのターンで潰しきらなければ負けるというのに、そのような愚行をするとは……と思った読者もいるのではないだろうか。

しかし、これが敗戦濃厚の状況を打開する決め手となった。

ルール説明の回を読み返して欲しい。具体的には27巻、些細な文言ですらも重要な伏線となっている。いや、レーシィは重要なことをさぞ些細なこととでもしたいように巧みに誘導していることが分かる。

具体的には『マスに隠れた船に命中すれば船の種類が明かされる』という説明だ。これは嘘ではないし、間違いなく真実を言っている。しかし解釈の仕方が大きく分かれる部分だ。もしかしたらルール説明の時点で、「ん?」となっている者もいたかもしれない。

これ、文字通りに『マスに隠れた船』にタッチしなければ、攻撃した判定にならないのだ。つまりマスの上に設置された潜水艦を攻撃したければ、マスの上側(もしくは中央)に触れなければ攻撃したことにはならず、下側を触れても攻撃した判定にならない。

この説明以外にも伏線はたくさんあり、大船を嵌めるための罠が二重三重にかけられている。その周到さ、絶対に勝てるという自信が現れていた理由が良く分かる。

是非ともリアルタイムで追いかけたかったものだ。

 

大船とレーシィの決着についての語りはこの程度に止めておくとして。問題はその後の後始末だ。立つ鳥跡を濁さずという言葉があるが、今回の場合は全員が全員、船やら何やらを滅茶苦茶にしながら去って行く。

例えば。

蜂名にとって今回のゲームは大船が負けても別に良かった。いや、むしろ死んでくれた方が都合が良かったことが、この巻で明かされる。

しかし大船は生き残る。

最初はただの一般人目線――第一巻の梶君のような立場だったのに、すっかり強者のテーブルについている大船のことを、死んで欲しくないと思っていた読者は、ブログ主だけではないだろう。蜂名はこのゲームにおいて、ある意味で彼らしくない立ち回りをしてくれた。その結果が描かれていく。

梶君は梶君で、レーシィのレーダーを誤魔化すというファインプレーを魅せてくれた。ただ縛られているだけではなく、獏に追いつかんというその強さが垣間見えた。そしてゲームが終わった後の立ち回りも……。

立会人達はその役目を最後まで全うした。梶君に携帯を貸してくれた人が、個人的には好きである。この漫画、基本的に女性キャラは可愛くないのだが。アニメ化して欲しいけど、したらしたで怖くなりそうな気がする。

 

『バトルシップ』は前半できっかり完結し、後半は蜂名(=お屋形様)が記憶を取り戻すための約束の地に訪れるエピソードとなっていく。向かった先は栄羽立会人が経営する古書店・和向双書房。

そこで『はちの王子さま』を蜂名の名前で注文する。届いた本には、落ち合うべき場所時間を記したメッセージが挟まれている。そうすることで栄羽立会人と会い、記憶を補うということのようだ。

何度も繰り返すようだが栄羽立会人が不在の今、その手段を使ったとて無駄骨になることは疑いようもない。

しかし、『はちの王子さま』は注文できた。できてしまった。蜂名は栄羽がすでに亡くなっている可能性も考慮しており、注文できないと踏んだ上で書店には立ち寄っていたのだ。

この注文によりやってくるのは、栄羽立会人か、もしくは……。

ここから描かれるのは、獏と蜂名の過去である。実は屋形越えよりも前に、お屋形様こと蜂名と獏は会っていたのだ。その運命的な出会いを果たした――その場所こそ古書店・和向双書房であった。

久しぶりの獏さんに歓喜しつつ、気になる場面で終わった第二十九巻であった。

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