※ネタバレをしないように書いています。
至高の騙し合い
情報
作者:迫捻雄
試し読み:嘘喰い 9
ざっくりあらすじ
迷宮で雪井出に負けた梶は、外に出たあとで何者かに拉致される。そこで0円ギャンブルで賭けて奪われたものを知る。一方、0円ギャンブルに嘘喰い・斑目貘が挑むが……。
感想などなど
いよいよ0円ギャンブル「ラビリンス」に獏が挑んでいく。ゲームのルールなどについては、八巻の感想に記載しているので、そちらを参照していただきたい。ルールを聞く限は、心理戦の要素は薄いような印象を個人的には受けた。
本来であれば相手が作り出した迷宮を解くために、回数を重ね、何度も壁にぶち当たりながら進めるということが大前提。しかし、雪井出薫はまさかの一発目で迷宮を解き明かしてしまった。
その確率の低さを考えるとイカサマをしているのは明らかで、その謎を解き明かすためにもう一度勝負を挑もうとした梶であったが、断られて追い出されてしまう。その先で謎の男――まぁ、正体は伽羅なんですけどね――に誘拐されてしまった。
この巻では0円ギャンブルの謎が解き明かされていく。ネタバレの境界線を自分なりに探りながら書いていくので、安心して読み進めて欲しい。
さて、0円ギャンブルにおける謎は大きく二つであろう。
一つ目「本当にノーリスクで何も賭けずにギャンブルができるのか?」
梶を含めてギャンブルに挑んだ者達は、印象に残っている日付の出来事を話し、その思い出を賭けるという体になっている。賭郎がバックに付いて、そのルールの確認を行っているという時点で契約は成立していることからも、そこに嘘はないだろうと思われた。
雪井出は本当にその日の出来事以上のものは貰っていないのだ。
二つ目「どうやって相手の作った迷宮を知ったのか?」
あからさまなネタでは流石の梶も気付くだろう。だとすればどこにイカサマを仕込んだか。二人が迷宮を書いた紙か、はたまたペンか。大穴のコピー機か。そしてイカサマが分かったとしても、そこからどう勝つのかが大事なポイントになってくる。
班目獏はゲームの説明を聞きつつ、策略を練っているのだろうか。
雪井出が賭郎によるシステムを説明している最中、彼は賭け朗について知らない振りをしたが、それは何かの作戦なのだろうか。その後も雪井出のイカサマを疑ってかかる挙動を繰り返し、少しずつルールを自身に有利な形に変えるように画策する姿が見て取れる。
これまでもそういった輩はいたのだろう。雪井出は焦らずに、その行動を軽くいなしていく。互いに油断できない騙し合いが行われていく。そこで立ち合い人としてやって来た門倉雄大は、その状況を鑑みてこう考える。
「嘘喰いは間違いなく負けるぞ」
この一言だけでも、この作品が名作と語られるに値すると思う。
「ラビリンス」というゲームを攻略するに至るまでの過程、そのために嘘喰いが仕掛けた罠は、読者に対してのミスリードとしても機能する。その構成の見事さたるや、ゲームとしての完成度の高さには驚かされる。
ギャンブルゲームを描いた作品の教科書的な作品だと個人的に思う。最高であった。