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【漫画】天幕のジャードゥーガル2 感想

【前:第一巻】【第一巻】【次:第三巻】

※ネタバレをしないように書いています。

女性から見たモンゴル帝国

情報

作者:トマトスープ

試し読み:天幕のジャードゥーガル 2

ざっくりあらすじ

皇帝チンギス・カンの死によって揺れる最強の大帝国。ファーティマは密偵として他の後宮へと足を踏み入れることになるが……復讐を誓った彼女はどう動く。

感想などなど

奴隷のシタラ。いや、復讐のためにソルコクタニに仕え、いずれ魔女と呼ばれることになるファーティマと呼ぶべきだろう。強く美しい彼女の戦いはまだ始まったばかりで、奪われた本は手に届くところにありながら取り返すことはできそうにない。

第二巻は第一巻のラストから八年後。チンギス・カンの死からは二年が経ったある日から始まる。ファーティマの生活はすっかりモンゴル民族に染まっているが、心までは染まっていない。復讐心が薄れたこともなく、変わらず本を取り返すべく機会をうかがっているらしかった。

そんな彼女にとって、チンギス・カンの死という帝国を揺るがす一大事はどのように映っていたのだろうか。想像するしかないことだが、少なくとも彼女を取り巻く環境が大きく変わり、「動くならば今だ」と思ったのではと推察する。

チンギス・カンの遺言は「オゴタイを頭に据えるように」というものだった。ファーティマが仕えているソルコクタニの夫・トルイは、その遺言に納得しているようだ。兄弟で協力して国を統治するように、という父の想いを理解したと彼は語っている。

ただ他の兄弟達はどうなのか。

誰もがトルイのように割り切れるわけがない。兄弟なんて血のつながった他人だ。オゴタイが頭になったという現実を、受け止められている者がどれほどいるか……しかも頭になったとはいえ、国の軍備のほとんどに関してトルイが実権を握っているという捻じれ構造は、後々の禍根を生みかねない。

その状況を危惧したファーティマの主・ソルコクタニは、チャガタイ義兄が、オゴタイ(=現皇帝)とトルイ(=ソルコクタニの夫)の仲に介入すると推測していた。それを阻止するために、ファーティマを彼を監視すべくファーティマを密偵として送り込んだ。

ここからファーティマの密偵生活が始まる!

 

ファーティマの密偵生活初日は始まりすらしなかった。これが運命の悪戯というやつなのだろうか。

元々の計画では、チャガタイのもとに行く奴隷とファーティマが入れ替わるというものだった。そのため迷子の奴隷や落とし物を管理する遺失物管理テントに行き、適当な奴隷と入れ替わった。

しかし、彼女は「オゴタイの第六妃・ドレゲネ皇后の大切にしている石を盗んだ!」と疑われ、ドレゲネ皇后の前に引き渡される。これは誤解だったわけだが、このままの流れでファーティマはドレゲネ皇后の奴隷として生活することとなる。

これは一大事、ソルコクタニ様に報告しなければ……という流れにはならない。「予定より活動しやすいところに潜り込めた」とファーティマは語る。ここで彼女の言う『活動しやすい』という言葉の意味を、読者は知っている。

モンゴルがここからどうなっていくのか。

 

ファーティマはなぜ、ソルコクタニの命通りにチャガタイのもとに行かず、ドレゲネ皇后に仕えることにしたのか。

「モンゴルが憎い?」というドレゲネ皇后の質問。「時間が経つとこんなところでも許してしまいそうになる」という彼女の言葉……実はドレゲネ皇后は、チンギス・カンに滅ぼされたメルキド族の生き残りで、それを自分からファーティマに語りだしたのだ。

そう、彼女はモンゴルの人ではないのだ。

ファーティマと同じ志を持ちながら、長らく動けずにいた。

この第二巻では印象に残る台詞が多い。個人的に気に入っているのは、「この帝国をめちゃくちゃにするような嵐を待っているの」というドレゲネ皇后の台詞だ。彼女は長い間、ただただ待っていたのだ。その重みが分かる。

それに対するファーティマの返答が、ドレゲネ皇后にとって大きな希望になったと思う。ファーティマは強く、かっこいい女性だということを改めて認識させられた第二巻であった。

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