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天才王子の赤字国家再生術 ~そうだ、売国しよう~ (10) 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

隠居したい

情報

作者:鳥羽徹

イラスト:ファルまろ

試し読み:天才王子の赤字国家再生術 10 〜そうだ、売国しよう〜

ざっくりあらすじ

ウルベスにて勝手にアガタの養子となったことが批判され、しばらくの間、国内で大人しくすることにしたウェイン。そんな時、デルーニオ王国から式典への招待が届き、妹のフラーニャを向かわせることに……。

感想などなど

ウルベスでの騒動において、ウェインの行動はおそらく最善だった。限られた情報の中で、「敵が誰なのか?」「思惑が何なのか?」を正確に汲み取り、アガタの養子になるという奇策まで出して掴んだのは勝利と言って良いだろう。

しかし国民――特に家臣からの目は冷ややかであった。ウェインがどんな考えであろうとも、王族の血筋というものを重要視する考えは世間一般の常識である。息子が無能であれば、血が繋がっていないということにして切り捨てる王ですらいる世の中で、王が他国の王の養子になったとなれば、焦る家臣がいるのも良く分かる。

ただ王座から引きずり下ろすことは、彼のこれまでの功績や、他に王になれる人間がいないことからできない。責めてウェインに全てを任せっきりにせず、自分たちも国政に参加しようという家臣達の動きは褒めてしかるべきかもしれない(むしろ、これまでどんだけウェインに押しつけていたんだ……?)。

こうしてかなり暇な時間ができたウェイン。ニニムと幸せそうな時間を過ごしている。

その時間を邪魔するかのようにやって来た、デルーニオ王国から式典への招待状。先ほども説明した通り、しばしの休みが降ってわいたウェインに変わり、フラーニャがデルーニオ王国の式典へと向かうことになった。

これが東西それぞれで起こる抗争の勃発を告げていることなど、気付くよしもない。

 

この第十巻ではフラーニャやウェインのあずかり知らぬところで、西では息子達の陰謀によるグリューエル王の失脚と戦争、東では皇帝の座を狙う息子達の戦争が同時に発生することになる。

その始まりはあまりに静かで突発的であった。

デルーニオ王国の式典に訪れていたのは、フラーニャだけではない。グリューエル王の娘であるトルチェイラもやって来ていた。その目は野心の炎に燃え、事実、彼女は国での地位を確かなものにすべく奔走し、それは他の息子達を焦らせるほどであった。

為政において、人の感情は無視してはいけない。他の兄達が焦るということも、トルチェイラは計算していた。さらに、そういった息子達の行動を、父であるグリューエル王は楽しそうに眺め無視するだろうということも……。

そんな彼女の思惑通り、トルチェイラがいない間に起こるは王太子・カブラによるクーデターである。彼は国王を幽閉し、病に伏したという情報を流し、兵を集めて反対勢力を潰して回っている。

それを好機と捉える者が、真の強者であろう。トルチェイラはデルーニオ王国に協力を要請、兵を集めて祖国・ソルジェスト王国を強襲。クーデターにより不正で国王となったカブラを断罪することで国民の支持を集め、女王になろうという算段……かにみえた。

ここまでただ事実を列挙しただけだが、二転三転する展開が分かっていただけたのではないだろうか。その様子を、渦中にいるフラーニャ視点で見てみれば、その驚きは増すというものだ。

そこで見せるフラーニャの大立ち回りが、あまりに可憐でかっこいい。

彼女こそ国王にふさわしいのでは? そう想ってしまうくらいには。

 

この第十巻は一見関係がないと思える事態も、全てをひっくるめて繋げていくことで争いが収まっていく。伏線回収的な気持ちよさ、遠く離れていながら最善策を打ち出すウェインの恐ろしさが垣間見える。

しかし何よりも注目したいのはフラーニャの成長だ。

これまでひ弱で兄に頼ってばかり居るような印象が、これまで少しずつ覆っていき、この第十巻では立派な姫としての風格を兼ね備えた。フラーニャの覚悟だけでも、見ていく価値のある物語であった。

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