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天才王子の赤字国家再生術 ~そうだ、売国しよう~ (11) 感想

【前:第十巻】【第一巻】【次:第十二巻】

※ネタバレをしないように書いています。

隠居したい

情報

作者:鳥羽徹

イラスト:ファルまろ

試し読み:天才王子の赤字国家再生術 11 〜そうだ、売国しよう〜

ざっくりあらすじ

兄皇子達の度重なる失態に乗じ、一気に攻勢に打って出る帝国皇女ロウェルミナ。その間に、レベティア教と東レベティア教も動き始め、ナトラ国の王子・ウェインも帝国へと向かった。

感想などなど 

ナトラは国民主権ではなく血統を重んじる。これはナトラに限った話ではないことは、西はソルジェスト王国での長男の反乱、東では帝国の後継争いを見ていただければ分かっていただけるだろう。

そんな中、このままいけば王子になるであろう者が、いつの間にか他国の王の息子になって帰って来た。ウルベス連合の三つ巴の闘争を治めるための一計とはいえ、家臣たちにとってしてみれば洒落になっていない(第九巻の内容)。

それからというもの、王子に任せていては何をされるかたまったものではないという家臣たちは、それなりに働くようになったらしい。ハッピーエンドと簡単に言いたいところであるが、実際はそんな単純な話ではない。

ナトラが発展したのは間違いなくウェイン王子の活躍によるところが大きい。それは少なからず認めているだろう。しかし国を離れて成果を持ち帰ってくることが多く、どこぞの息子になるような奇天烈な展開になることも多い王子に対する不安も募っていく。

そんな空気を察したウェイン王子は、今は国を離れるべきではないと判断。冒頭にて、東レベティア教から帝国で会談しないかというお誘いも、ナトラでしようというように提案する程度には考えている。

ただ結局、彼はナトラを飛び出して帝国で成果を上げてしまうわけだが。

 

さて、ここらで少し帝国の情報を整理してみよう。

まず最大のトピックは次期皇帝が決まっていないことであり、これまでウェインはその権力争いに巻き込まれてきた。ロウェルミナ皇女とウェイン王子の見合いや、ウェイン王子の暗殺未遂騒動は遠い昔の記憶で、フラーニャが民衆を焚きつけての逃走劇は記憶に新しい。

次期皇帝の座を争っている勢力は下記の四人。

一人目、第一皇子ディメトリオ……ただ彼は第七巻の騒動で、皇帝争いから退くことに決めた。父親が皇帝ではないかもしれないという疑惑が出てきて、そんな母親の疑惑が表に出てこないようにするために自ら皇帝の座を捨てたのだ。それからは隠居生活である。

二人目、第二皇子バルドロッシュ。見た目は武人、中身も武人。彼が持っている軍隊はかなりの練度を誇るらしい。もしも皇帝争いの戦争が起きれば、彼が最も有利といえよう。

三人目、第三皇子マンフレッド。ディメトリオやバルドロッシュと比較すれば大人しめだが、冷淡な決断ができる知略家である。ただ知略家といえばウェインがいるので、読者としては見劣りしてしまうが……世間一般的に見れば優秀なのだろうが。

四人目、皇女ロウェルミナ。ウェインといい関係を築きつつ、民衆の心を掴む策略の数々は見事と言わざるを得ない。これまでの争いから鑑みて、風は彼女に吹いていることは間違いないだろう。ただ初の女帝の誕生に対し、後ろ向きな声があることも事実だ。

辞退したディメトリオを除いた三人が、皇帝の座を狙ってアレコレしているのが皇帝の実情だ。国民としては、さっさと次期皇帝を決めてほしいといったところか。その心を煽って、自分の勢力にしているのが他でもないロウェルミナであり、それにウェインもさんざん巻き込まれてきた。

そうして仲間を増やし地盤を固めてきたロウェルミナが、今回、本格的に動き出す。

ただそんな時を見計らったように起きるのが、ロウェルミナ暗殺未遂事件である。

 

この第十一巻の一連の戦いを読んでの感想を一言で言うなれば、「気づけば始まり、気づけば終わっていた」だ。戦いの火蓋は、ロウェルミナ暗殺未遂事件だった。ただその準備はずっと前から起きていて、暗殺未遂は表沙汰になった表面上の始まりに過ぎない。

皇帝を巡る戦いが、ロウェルミナやバルドロッシュ、マンフレッドやウェインの視点が複雑に入り乱れながら展開し、誰が有利かの判定もページをめくるごとに切り替わっていくような複雑な展開を見せる。「誰が勝つ?」とギリギリまで分からない状況が、たった一言で覆っていく。

例えば。

ロウェルミナ暗殺未遂事件……実はこれ、ロウェルミナの自作自演である。ネタバレのように思われるかもしれないが、この程度の情報はネタバレにはならない。これにより実際に進行していた暗殺計画をけん制しつつ、国民の同情票をかっさらうという算段だ。

しかし、このロウェルミナの計画は裏目に出る。世論は「暗殺未遂で逃げ惑うような者に皇帝を任せていいのか?」といったような不信感が少しずつ湧き上がっていたのだ。さらに実際に暗殺未遂を企てていた人物は焦る。そして、ロウェルミナ暗殺未遂の話を聞いたウェインは、家臣達を振り切って帝国へ――。

あらすじを聞いただけでも二転三転していることがお分かりいたけただろうか。ここに東レベティア教も加わってくるので、状況はもっとややこしい。

そんな戦いを制した勝者――つまりは次期皇帝だが、ぜひとも頑張ってもらいたいものだ。

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