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天才王子の赤字国家再生術 〜そうだ、売国しよう〜 (3) 感想

【前:第二巻】【第一巻】【次:第四巻

※ネタバレをしないように書いています。

隠居したい

情報

作者:鳥羽徹

イラスト:ファルまろ

試し読み:天才王子の赤字国家再生術 3 〜そうだ、売国しよう〜

ざっくりあらすじ

隣国カバリヌより、大陸西側の一大宗教・レベティア教の主催する『聖霊祭』への招待を伝える使者がやって来た。西側で絶大な影響力を持つ『選聖侯』が集まるということもあり、面倒なことに巻き込まれることを確定だが、隣国との関係を良好にするため参加を決意するウェインは、彼の想定するよりも遙かに面倒なことに巻き込まれていく。

感想などなど

ウェインの運が良いか否かは、話し合うに値する面白い議題だと思う。

第二巻における皇女ロウェルミナとの騒動において、大きなターニングポイントとなったのは、ゲラルト・アントガダル郷をうっかり殺してしまった事件であることは周知の事実であると思う。その死因があまりに阿呆らし過ぎて、誰もが彼はウェインに暗殺されたのだと思ったくらいだ。

しかし、それを期にアントガダル郷との小競り合いを引き起こして、知略戦で手も足も出ないくらい叩きのめした。もう彼が刃向かうようなことはないだろう。

そもそもアントガダルがナトラに来ることが想定外であったし、理性では理解できない突拍子もない人間の行動が、ウェインを窮地へと追いやってきた。その窮地をチャンスへと変えてきたウェインは、間違いなく優秀な男であろう。

ウェインはこれまで理性で物事を推し量ってきた。理屈で人の感情をくみ取り利用する……理屈では図れない人間が、ウェインの弱点なのかもしれない。

そんなウェインが、自らの感情を優先し、事態をややこしくすることになるのが、この第三巻である。まずは事の起こりから見ていこう。

 

第一巻にてナトラに侵攻してきたマーデンは、カバリヌに滅ぼされた。つまり言うまでもないことだが現在の隣国はカバリヌである。平和とは隣国との良いお付き合いによって生まれる。恨み妬みによって侵攻されることは、金鉱山を持っていたマーデンが身をもって証明してくれた(カバリヌは金鉱山を欲しさの侵攻だったと思われる)。

金鉱山を持って、これからそこそこの収益が見込めるナトラは、これから侵攻されるとしても不思議はない。しかも西側はフラム人を忌み嫌い、人間として扱わないという文化がある。そんな彼らにとって、フラム人を重要な役職に就かせるナトラは、かなりの野蛮な国家、もしくは変わり者として見ているようだ。

そんな西側と友好な関係を築くことはかなり難しい。だからこそ慎重に事を運ばなければいけない。

そんな中、隣国カバリヌから使者がやって来た。大陸西側の一大宗教・レベティア教の主催する『聖霊祭』への招待ということらしい。先ほども書いた通り、ナトラがレベティア教の大事な祭り『聖霊祭』へと、快く招待するとは思えない。そこに何か裏があると考えるのが自然であろう。

だからといって断ることは、隣国との関係性を悪くすることにも繋がる。

まぁ、行くしかない。フラム人のニニムは白い特徴的な髪を黒く染め、護衛は極力絞りつつ、カバリヌへの路を急ぐ。そこで第一の面倒事、何者かの襲撃に遭ってしまう。いくら護衛を絞ったとはいえ、襲撃に遅れを取るような半端なウェインではない。森へと突っ込み、そこにいたマーデン解放軍達に助けて貰うという無理を押し通した。

マーデン解放軍……カバリヌに首都を奪われているも、未だにマーデンを捨てず、ここぞという奪還の時を狙っている集団だ。カバリヌからしてみれば危険なテロリスト。マーデンはナトラと鉱山を巡っての戦争をしていたがために、国を奪われたという背景もあるが、敵の敵は味方理論で、ウェインの陣営へと引き入れた。

この選択が吉と出るか凶と出るか分かるのは、かなり後になってからである。

 

さて、そもそも襲撃は誰によって仕組まれたのか。敵陣営の様子も描かれているため、読者からしてみれば犯人は一目瞭然なのだが、ウェインは持ち前の観察眼でカバリヌの官僚がしたことだと悟る。

しかし、カバリヌも一枚岩ではないことも同時に見抜いた。

ウェインを『聖霊祭』に招いたのは、カバリヌのトップであるオルドラッセ王だった。こいつはどんな策略を持っているのか? とワクワクしながら読み進めることになるが、彼の出した提案はウェインの想定を上回る斜め上っぷりであった。

なんと『選聖候』にウェインを推薦しようというのだ。

そもそも『選聖候』とは? と疑問に思っていることだろう。

そもそも一大宗教・レベディア教というのは聖王(現在はオルドラッセ王)を頂点とし、それを補佐する選聖候達で構成されている。聖王は選聖候の中から選ばれるため、いわば次期聖王候補が、選聖候ということになっている。

そんな重要な役職にウェインを就かせようと聖王は考えている。

他の選聖候からしてみれば、急な対立候補の登場は面白くない。しかもあのフラム人を傍に置いておくような人間である。彼らが抱く嫌悪感はかなりのものだと思われた。そんな面倒事に巻き込まないで欲しいというのがウェインの本音であるが、オルドラッセ王が提示した選聖候になった暁のメリットはかなりのものであった。

とりあえず前向きに選聖候になる道を考え始める……しかし物事がそう上手くいくはずがない。反りが合わない人間はいる。どうしても協力関係になりたくない泥船もある。いつまでも国の保身ばかり考えてはいけない時もある。

そんな彼が下した決断は、一国を揺るがす大惨事へと繋がっていくことになる。ゆったりとした展開からは想像できないような急展開に、最後は一気読み必至である。面白い戦いであった。

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