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天才王子の赤字国家再生術 〜そうだ、売国しよう〜 (5) 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

隠居したい

情報

作者:鳥羽徹

イラスト:ファルまろ

試し読み:天才王子の赤字国家再生術 5 〜そうだ、売国しよう〜

ざっくりあらすじ

ミールタースでの騒動を経て知名度を上げ、着々と景気も上がっていたナトラ国。しかし心配ごととして、新たに領地として加わったマーデン国とナトラ国間でのパワーバランスが気にかかる。そこでグリュエール王が治めるソルジェスト王国と友好関係を築き、国全体の底上げを画策する。そんな折にグリュエール王に招待され、早速むかうが……。

感想などなど

ミールタースで三万人の市民を引き連れての突撃という無茶を実現させたフラーニャ王女。これによりフラーニャ王女の名前は、歴史に刻まれたことだろう。それも全て、彼女のカリスマ性のなせる技であろう。

忘れてはいけないのは、その背中を押したウェイン王子だ。三万人の心を動かしたのはフラーニャ王女だが、その作戦を実現に移すという発想は彼から出たものだ。こうして彼に影響され、周囲の者達は成長していくのかもしれない。

とにかく、その一件は帝国のみならず大陸全土にまで影響を及ぼした。ウェインとフラーニャの二人の名前が轟いたのだ。そしてナトラ国には、これまでにない好景気がやって来た……いやぁここまで来たら安泰ですね!

と浮かれたい気持ちをグッと堪え、この好景気による悪影響も考えなければいけないのが、為政者の辛いところである。パッと思いつく懸念点は、ナトラの下につくこととなった隣国マーデンも好景気となっており、結果としてナトラ国を上回ってしまった場合に裏切られるかもしれないという可能性だ。

マーデンは戦争に次ぐ戦争に加え、ウェインが王を殺しちゃった事件もあり、国民の疲弊も凄まじかった。今は貿易によって景気は上向きになっていることは確かだが、かつてのゼノヴィアと同じような反乱分子がいるとも限らない。新たに王として君臨しているゼノヴィアが、抱える心労や問題は計り知れない。

ウェインがそんなマーデン国との軋轢を気にしている中、ゼノヴィアも同じようにナトラとの関係性を懸念していた。彼女はウェインに対して、尊敬と畏怖が混じったような感情を抱いている。できることなら良好な間柄でいたいというのが、彼女の切なる願いである。

この第五巻はそんなゼノヴィアへの試練でもあり、ウェインが心に飼っている獣の恐ろしさを知ることになる戦争でもあった。

 

この第五巻で起こることを一言でいうなれば戦争である。

ナトラは過去に戦争は経験している。マーデン国との防衛戦から、金鉱山を巡っての籠城戦に、ナトラ国内で起こったクーデターへの対応……どれも数的に不利な状況をひっくり返してきた。

戦争は情報を握った者が勝つということが、それらの戦いから良く分かる。意表を突かれた時というのは、死ぬ時と同義なのではないかと思ってしまうほどに鮮やかな騙しが効いている。

どれほど事前に準備をしていたかが物をいうのが戦争であり、これまでの敵はどれも全く準備が足りなかったと言わざるを得ない。ウェインは所詮ナトラという貧乏国の王としか捕らえていなかった奢りが、敗因の一つだっただろう。

今回ウェインが戦う相手は、ウェインを全く舐めてはいなかった。むしろ高く評価し、だからこそ準備を丹念にしていたことが、読んでいけば良く分かる。

ウェインを直接責めるのではなく、ゼノヴィアを騙すような形で利用した作戦は見事だった。ゼノヴィアは想定される最悪な形で利用されることになるのが分かるのは、かなり後になってからだ。

だたウェインの方が一枚も二枚も上手だっただけのこと。

戦争における敗者は、その格を大いに落とすことになる。死ぬか、利用されて殺されるか……死に方は選べない。だが今回の敵は、負けてもなお自らの死に方を選ぶことのできるだけの胆力と余裕、知恵があった。

これこそが強き者の姿なのではないだろうか。これまでの戦いとは違い、ウェインを真っ向から潰そうとする戦争であった。

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