※ネタバレをしないように書いています。
疲れませんか?
情報
作者:萩原あさ美
出版:講談社
試し読み:娘の友達 (1)
ざっくりあらすじ
妻が死に、娘が不登校となってしまった。一見すると昇進しつつ順風満帆に見える仕事も、人間関係でかなり溝が感じられた。そんな日々に心を病みながら、数少ない憩いの場であるカフェに行くと、娘と同じ高校に通う娘の友達・如月古都がバイトしていた。
感想などなど
ブログ主は会社に所属している平凡な会社員だ。平日は電車に揺られて通勤し、帰りは眠気に苛まれながら同じく電車に揺られている。できることならば永遠に大学生活を謳歌していたかったが、それは無理だと悟ってしまった。この記事を見に来た皆さんが、社会人か学生か定かではないが、きっと大差ない道を辿っていくことになると思う。
本作の主人公である市川晃介は、どこにでもいるような会社の課長だ。上司であるが故に、増えていく責任や人間関係の問題に頭を痛めている。部下からの視線や、進まない仕事、無能で仕事を増やすことが得意な上司……もう辛い。通勤の足取りも重たい。
帰る場所であり、心身共に癒やすことが出来る場所であるべき家ですら、彼にとってはストレスの溜まっていく場所に過ぎなかった。
まず妻が亡くなっている。家にある仏壇で毎日、手を合わせている。そんな妻との間には美也という娘がいた。しかし、ここ数ヶ月引きこもってしまっている。長らく娘の顔など見ていない。外に出て貰おうと声をかけるも、返って来る言葉は怒声だった。
ずっと先の見えない日常で、ストレスばかり溜まり続け、誰にも相談できない苦しさが描かれていく。
そんな苦しむ彼の傍にやって来て、優しい言葉を掛けてくる女子高生がいた。喫茶店でバイトする如月古都、美也とは同じ学校に通っており、しかも二人は幼馴染みなのだという。
この出会いが全ての始まりだった。
この作品のジャンルは何かと聞かれれば、ブログ主は迷わず『ホラー』だと応える。この物語を読んで、明るい未来というものが全く見えてこない。
まず市川晃介に向けて、如月古都が優しく言葉を囁きかけてくる。
「よく頑張りましたね」
「お父さんを元気づけたくて」
「疲れませんか?」
「辛いですよね」
毎日のように明るいLINEが送られてくる。妙に近い距離感と、彼女の台詞は心の隙間を埋めてくる。
「今日だけは「係長」も「お父さん」もおやすみして「晃介さん」になってみませんか?」
この台詞が一つ目の分岐だったような気がする。流されるような形でカラオケに入っていく。そこから先に進んでは駄目だと、晃介の理性も、読者の理性も言っている。
カラオケでは何もなかった……と思いたい。家に戻ってきて、彼が初めて見せた涙が心を抉ってくるのだ。
ここまで読んで如月古都という女子高生に対して、どんな感想を抱くだろう。ブログ主はやはり「恐い」と思った。何を考えているのか、全く分からないのだ。
何故、晃介に対してそれほどまで距離感を詰めてくる?
何故、ここまで晃介という男の理性を破壊しようとする?
そこにある感情の正体は何だ? 同じ疑問を抱いた晃介も、ただ微笑むだけの如月古都に問う。しかし、その問いに対する答えはやはり――。
この如月古都の甘言に乗り続けたとして、誰も幸せにはならない。