※ネタバレをしないように書いています。
絶望と仲良く
情報
作者:つくみず
試し読み:少女終末旅行 1巻
ざっくりあらすじ
文明が崩壊してしまった世界で、ふたりぼっちになってしまったチトとユーリ。愛車ケッテンクラートに乗って、廃墟を当てなく彷徨う彼女達の日常。
感想などなど
「星空」
現代日本において、夜の街は街灯で照らされて眩しいと感じるくらい明るい。現代の日本人は本当の意味での暗闇というものを、実は見たことがないのかもしれない。
この作品で描かれる世界は、何らかの理由で人類がいなくなってしまい、かつての人が住んでいた痕跡ばかり残る廃れた終末の世界となっている。たった二人残されてしまったチトとユーリは、ケッテンクラートに乗って廃墟の中を進んでいく。
今回、二人が迷い込んでしまったのは巨大な建造物の中。陽の光が入ってこず、迷宮のような場所を当てもなく時間感覚も狂わされながら進んでいく。我々であれば恐怖で狂ってしまいそうな環境であっても、ゆったりとした精神を保っていられるのは、二人で一緒にいられるからだろうか。
長い長い探索の果てに、ユーリの機転(?)により脱出を果たした二人の目の前に広がるは星空。廃墟と星空の一枚絵が素晴らしい。
「知らなかったね 夜の空がこんなに明るいなんて」とユーリ。
「ずっと暗い穴の中にいたからね 光に敏感になってるんだよ」とチト。
絶望的な世界だが、二人のゆったりとした雰囲気と会話に癒やされる……そんな不思議な第一話であった。
「戦争」
この世界で何が起こったのか、彼女達は何も語ってくれない。きっとどうでもいいのだろうし、詳しくは知らないのだろう。
だが、至る所に転がっている戦闘機の残骸や、その中にある弾丸やレーションや爆弾といった類いが、この場所で起こったことを物語っている。それらを漁り食料を集め、銃を撃つ練習をするのがチトとユーリの日常である。
チョコ味のレーションを、「チョコが何なのか知らんけど」と言いながら美味しいと食べる。ちょっとした喧嘩や戯れに銃が持ち出される彼女達にとって、戦争で多くの命を奪った兵器は身を守るための道具であり、レーションは命を繋ぐ必需品なのだ。
「風呂」
今となっては当たり前のように入ることができる風呂だが、大量の水しかもお湯を消費することは、とてつもない贅沢なことだということを理解しなくてはいけない。終末世界においては、水だって重要なのだ。
天井に穴が空いた元発電所の廃墟にて、降りしきる雪を背景にして、偶然にも手に入れた大量のお湯を満喫するのは最高だろう。
「ごくらくごくらく……」と浸かりながら言うのは、いつの世も変わらないのかもしれない。極楽はあの世を意味する言葉らしいが。
「日記」
文字という発明は偉大だ。お陰で昔の出来事が記録されて現代まで残っている。人類の歴史は文字によって紡がれたものだと言っても過言ではない。しかし、そんな偉大な文字も読める者がいなくなっては、ただのゴミと化してしまう。
そんな文字の価値というものを理解し、自分達の歩みを日記という形で記録している者がいた。チトである。だがそのことの凄さをどうにも理解できない者もいた。ユーリである。
ユーリにとってチトが書く日記は、何か知らないけど彼女が大切にしているものという認識でしかない。まぁ、日記は嵩張るし、役に立つかと言われれば難しいところだろう。
それでも人それぞれには、他人には大事に見えなくても大事なものがあるはずだ。それが二人にとっての共通認識になってくれれば幸いだ。
「洗濯」
風呂に続いて洗濯も、大量の水を消費する。だが服を清潔に保つということは、健康に生きるという上での基礎中の基礎。当たり前のように社会人がこなしているが、洗濯機という三種の神器の一つがあるからこそ成し遂げられている。
終末世界においては洗濯をするには、それなりに大量の水が必要になる。それでいて濡れた服を乾かすための天気にも恵まれなければいけない。そんな環境が整った際に始まる一大イベントが洗濯である。
その光景がこれまた楽しそうで。人工物で覆われた河のような場所で、たまたま流れてきた魚を食したりと平和な時間が続く。まぁ、「ヒト以外の生き物なんてもう残ってないと思ってたけど」という不穏なチトの台詞など、不穏な空気は変わらないのだが。
「遭遇」「都市」
終末世界でまさかのヒトと遭遇である。名前はカナザワ、地図を作りながら旅をしているそうだ。ちなみにチトとユーリには特に目的はないように見受けられる。漠然と上へと向かっているようだが、その理由は定かではない。
ちなみに、この世界は古代のヒトが作り上げた階層構造の都市となっており、今となってはいない人類はそのインフラに住み着いていたようだ。カナザワは今いる階層については、全て地図にしてしまったらしく、次は上の階層の地図を作るつもりのようだ。
上の階層……「洗濯」では上の階層から魚が流れてきたというような考察を、チトはしている。もしかしたら今いる階層にはないような食料などあるかもしれない。そんな期待を胸に抱きつつ、カナザワの地図を頼りに上の階層へ向かうための昇降機のある塔へと向かった。
カナザワは地図が命のように大切なものだと語った。これが無くなったら死ぬとまで言い切っている。それに対して、燃やしたら本当に死ぬのか試そうとするユーリは割と畜生だ。だがそれが良い。
「街灯」
このブログではネタバレをしないように書くようにしている。だが、ユーリのこの台詞だけは書かせて欲しい。
「意味なんかなくてもさ」
「たまにはいいこともあるよ」
「だってこんなに景色もきれいだし」
この作品は印象に残るシーンが多かった。ラスト、上の階層に来て広がっていた景色も言わずもがな。爆笑するようなこともなければ、興奮するようなバトルもないが、それでも心に残る漫画であった。