※ネタバレをしないように書いています。
ラスボス飼ってみた
情報
作者:永瀬さらさ
イラスト:紫真依
試し読み:悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました
ざっくりあらすじ
乙女ゲーム世界に悪役令嬢として転生したアイリーンは、今後の展開的に死ぬしかないことを思い出す。その危機的状況を打開するため、ラスボスである魔王クロードに婚約を申し込むことに。
感想などなど
絶賛、婚約破棄されるという場面で、ここが前世でプレイしたゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界であるという記憶を取り戻す最悪なスタートの本作。
そもそも何故、婚約破棄されるに至ったのか?
悪役令嬢は主人公に負ける運命だから、といってしまえばそれまで。
『身分の高い者から声をかけなければ話しかけてはいけない』という貴族のルールを押しつけた、学園祭の劇の演目も、長すぎる台詞を覚えるのが大変だから変えた……といった主人公・リリアに対する細々とした侮辱(と思われるもの)の積み重ねが、リリアに恋した婚約者・セドリックの堪忍袋の緒を切れさせたのだろう。
また、セドリックに認められるために頑張って頑張って、彼に認められる度に募っていく思い上がりが、高慢な態度を作り出し、学園一の嫌われ者という称号を得てしまったことが原因かもしれない。「もうちょっと愛想良くしていれば」という後悔をするには、記憶を取り戻すのが遅すぎた。
さて、問題はそんな過去よりも、記憶を取り戻したことで判明した未来。学園を卒業後に辿るアイリーンの運命が、エンディング後の死に集約される結末のこと。ここからどのルートに進んでも死ぬという絶望的状況を打開するため、悪役令嬢アイリーンが奮闘していくこととなる。
そこで利用するのが、ゲームにおけるラスボスにして魔王・クロードである。
警備も手薄で、なんか口うるさい烏が話しかけてくるだけという薄暗い道を抜けると、雨漏りの酷い廃墟みたいな廃城がある。そこが魔王が住む魔王城であり、婚約破棄されて早々にアイリーンが向かった場所である。
「敵の敵は味方」という理論に基づき、ラスボスとの結婚すれば良い感じにまとまるんじゃね? という頭が良いのか悪いのか分からない作戦を実践するアイリーン。そのための自宅突撃訪問であり、いきなりの求婚宣言。このテンポ、嫌いじゃない。
ここから始まるアイリーンから魔王・クロードに向けての求婚合戦が面白い。
ここで注目すべきは、この時点では『生き残るために求婚する』のであって、『アイリーンからクロードに対する恋愛感情はない』という点だ。それははっきりと明言している。
そんなアイリーンがクロードに惹かれ、クロードもまたアイリーンに惹かれ。そんな恋愛が実っていく過程が丁寧に描かれていく。特にクロードの場合、感情が天候に表れるという特性により、嫉妬や恋慕、怒りといった感情が分かりやすい。
こいつ……隠しているつもりか? とニヤニヤしてしまうことを約束しよう。
ちなみに本作の設定上では、魔王=人間、しかもエルメイア皇国第一皇子というかなりしっかりとした血統の持ち主だ。それなのに魔王と呼ばれているのには、悲しい理由がある。
実はこのクロード、魔王の生まれ変わりなのだ。その証拠として、彼に危険が及べば魔物の大群が押し寄せ、彼の命令であればどんな命令であろうとも魔物は従う。もしも彼が国を滅ぼせと魔物に命じれば、一国は容易く滅びる。これを魔王と呼ばずして何と呼ぼうか。
そんな彼を恐れた王家の者は、彼をおんぼろ廃城に隔離という名の幽閉を行った。もしも殺そうものなら魔物に何をされるか分かったものではないし、彼が魔物を大人しくさせているのであれば、特に王家から言うこともない。
触らぬ神に祟りなし……いや、臭い物には蓋をするという方が正しいか。
だからこそ、彼の逆鱗に触れて壊れてしまった場合――つまりゲームにおけるラスボスとなってしまった場合、それはもう手が付けられない。魔王を倒せるとすれば、伝説で語り継がれる聖剣の乙女・リリアしかいない。
その戦闘の過程で、アイリーンは巻き込まれて死ぬ。だったら、その戦闘を起きないようにすれば良い。天才か? 天才だったわ。
この一巻で綺麗に完結している。とはいえ、その後の巻は出ているのだが、「二巻以降は読まなくても良いかな?」と正直言うと思っているくらいだ。これ以上何を求めるのか、と疑問に思っている。
これから先、どんな困難があろうともアイリーンとクロードの二人ならば、何とかしてくれるのではと思う。満足度の高い第一巻であった。