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【漫画】新米姉妹のふたりごはん10 感想

【前:第九巻】【第一巻】【次:第十一巻】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

姉妹の新生活

情報

作者:柊ゆたか

出版:電撃コミックスNEXT

試し読み:新米姉妹のふたりごはん 8

ざっくりあらすじ

父が再婚し、急に妹ができた。食べることが大好きな姉・サチと、料理が大好きで無口な妹・あやりの二人による美味しい匂い漂う生活は始まったばかり。

感想などなど

「防災ごはん」

大人になってからというもの防災訓練を受けたことがない。強いて言うならAEDの使い方の指導をくらいだが、正直なところ記憶にない。実際に目の前で心停止の方がいたとして、冷静にAEDは使えないと思う。

日本は災害大国。幾度となく地震に遭遇し、大雨洪水警報で増水した川を見てきた。そのたびに生き残ってきた経験が、バイアスとなって防災意識を低減させているのかもしれない。

その証拠に、今、自宅に非常食はない。もしも今災害に遭遇したら、無駄に備蓄してある酒やエナジードリンクで生き残る必要に駆られることとなる。おそらく早々にリタイアして死ぬことになるだろう。

そんな自分と比べて、サチとあやりの偉さ・逞しさよ。非常食の備蓄はばっちり、しかも「もしも」の状態を想定してカレーまで作れるようにしている。ただのカレーではない。洗い物は極限まで出さず、非常食となるような保存ができる食材だけを使ったカレーである。

しかもおやつにプリンまでご用意。もはやちょっと不穏なキャンプである。

勉強になる回であった。

 

「オムレツ」

過去にオムレツを作ろうとしたことがある。その時、できたのは良く分からない形の卵焼きであった。美味しければ良いや、という楽観的感性により大成功ということにしておいた。不器用と笑うが良い。

あやりからしてみれば、手慣れたオムレツ。作るシーンは1ページくらいであった。私の苦労は何だったのかと頭を抱えたくなる。

という訳で、この話におけるメインはオムレツではない。オムレツを乗せる皿に焦点を合わせている。皿なんて気にせず、安物の値段もどこで買ったかも記憶にない皿を使っていた自分を恥じたいところだ。

今回は100円ショップの無印皿に、色々と色付けしてオシャレな皿を作る回である。何かと器用なサチと、料理以外はどうにも不器用なあやり。それぞれ個性豊かな皿を作り、それにあやりの作った綺麗なオムレツを乗せて食べる。皿も食事の重要な要素の一つ、自分の認識を改める必要性を垣間見た回であった。

 

「クロワッサン」

洋画など見ていると、たまーにやってるベットで朝食を食べる奴。あれは日頃の感謝を込めて、朝食をベットでプレゼントするというものらしい。それを映画のワンシーンで見て、憧れを抱いたサチ。そんな姉の要望に応えるべく、クロワッサンを早朝から作って準備するかいがいしい妹あやり。

こんなんされたら好きになるに決まってるやん……サチとあやりがベットで二人並んで食事する姿は微笑ましい。

 

「猪のバルサミコ酢煮」

バルサミコ酢を購入しても、使い方が良く分からなかった経験はないだろうか。ブログ主は絶賛苦しんでいる最中である。「何故買ったのか?」酒の勢いの恐ろしさとだけ言っておく。

バルサミコ酢については作中で説明があるが、ブドウが原料の甘酸っぱい果実酢である。熟成されることで甘さが増し、アイスにかけても美味しいという万能な酢である。調べる限りはソースに使われることが多いようだ。

今回は叔母さんのみのりさんがやって来て、持ってきてくれた猪料理を作っていく。ここのところ料理描写は数ページということが多い中、ここではがっつり数ページ割いて料理シーンが描かれていく。

メインのバルサミコ酢や猪肉、赤ワインといった全てがオシャレで、できあがった料理もまた美味そうに描かれている。「甘じょっぱくてコクがあって……口の中がきゅんってしたぁ」という変わらず上手い食レポも久しぶりに見た気がする。

そうそうコレコレ。自分が好きになったのはこういう物語だ。

 

「ラディッシュのポタージュ」

カメラマンの父の手伝いに、一ヶ月ほどシンガポールに来ないかと誘われたサチ。これまでカメラの才能があるようなエピソードがあったり、父の仕事に興味を抱いているような描写があった。これから先の進路を考える上で、この経験が生かされるだろうことは想像できた。

その旅にあやりも同行という予定だったが、現役のフレンチシェフがあやりの学校でフランス料理教室を開くという話を聞き、是非とも参加したいと考えていた。この時期が、サチのシンガポール旅行と被っていたことで、二人は悩んでしまう。

このままでは離ればなれの夏休みを過ごすことになってしまう……と。

その悩みを二人で相談し、これから先のことを考え始める。いつまでもこのような生活が続く訳ではない。そのことは分かっているけれど、今の時間も大切にしたい。そんな中、ラディッシュを使ったポタージュ作成に挑戦するあやり。

知らなかったがポタージュはどんな食材でも使うことができるらしい。以前には桃をスープにしたこともあることを考えると、ラディッシュくらいならばどうとどでもできる気がする。

手間暇をかけできあがった料理は可愛らしく、しかし美味しい。

じんわりと温かい物語であった。

 

「ラタトゥイユ」

サチはシンガポールへ、あやりは日本に残ってフランス料理教室を受講することを決めた夏休み。色々な料理を教えて貰った中、モチベーションのため「自分の料理を食べて欲しい人達のことを想って、その人達が喜ぶレシピを考える」という課題が出された。

あやりの脳裏に浮かぶのは、いつも明るい姉の姿。しかし今はシンガポールにいる。

言い知れぬ寂しさを抱え、血の繋がりのない姉との縁について考える。忘れがちだが、二人は血の繋がっていない新米姉妹である。いざ離ればなれになってしまえば、もう縁が戻ってこないような不安があるのかもしれない。

そんな彼女が作った料理がラタトゥイユ。

大量の野菜を炒めて混ぜた姿はカラフルで美しい(インスタ映えするとまで言われている)。それはバケットに乗せても、肉や魚の付け合わせとしても、サラダと組み合わせてドレッシングのようにしたりと万能な料理である。なにを想ってこの料理を作ったのか。あやりの心境を想像すると面白いかもしれない、

 

「ペーパーチキン」

視点はシンガポールで働くサチに移る。知ってはいたが、彼女は想像以上に有能である。このまま高校を卒業して、父の下で働くことも可能ではないだろうか。しかし働き過ぎた彼女は、そろそろ肉体的・精神的にも限界が近づいていた。

そんな彼女の前に現れたのが、まさかのあやりである。

どうやら心配になってシンガポールに来てしまったらしい。行動力の凄まじさよ。シンガポールってそんな簡単に行けるものなのだろうか。そういう心配をしてしまう訳だが、サチにとっては暁光にして救い。

サチの生きる源に、あやりの料理はなっているのかもしれない。

限界になっていたサチに、あやりはシンガポールに来て食べた料理・ペーパーチキンを作って振る舞った。店でしか食べられないかと思っていた料理だが、けっこう手軽に作れるようだ。

未来のことを意識しだした二人、物語としての終わりが近いかもしれないとどこか寂しさすらある第十巻であった。

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