※ネタバレをしないように書いています。
姉妹の新生活
情報
作者:柊ゆたか
出版:電撃コミックスNEXT
試し読み:新米姉妹のふたりごはん 4
ざっくりあらすじ
父が再婚し、急に妹ができた。食べることが大好きな姉・サチと、料理が大好きで無口な妹・あやりの二人による美味しい匂い漂う生活は始まったばかり。
「みぞれ鍋」「いちごミルク」「フォアグラ」「オムライス」「オランジェット」「海鮮丼」
感想などなど
「みぞれ鍋」
みぞれ鍋とは、具の上におろした大根をのせたものである。みぞれ餅くらいでしかしらなかったが、それを鍋にするとは知らなかった。大根をおろす際には、縦4つに割って面積を小さくすることで擦りやすくなるという知識も得つつ、大根おろしの水分をそのまま使うと甘みが増すという一手間工夫も学びつつ、朗らかな雰囲気で箸が進む。
そんな料理の話だけでなく、室内に飾られているサチの撮った写真を見て、「サチって昔から写真うまいよね」と家に来ていた絵梨が語ったことで、空気感がきゅっと締まる。
写真家として世界中を飛び回り、ほとんど家にいない父親。サチはそんな父に対して、怒るわけでもなく、寂しがるでもなく、いつも笑顔を振りまいている。写真の才能を受けついでいるならば、いつか父のように世界中を飛び回る写真家になってしまうかもしれない。
絵梨はそんなことを冗談で語った。サチも「私はコタツでみかん食べてるほうがいいよ」と語るが、どうにも深刻に受け止めている者がいた。あやりである。将来というこれまで考えたことのなかったことを、考えるきっかけとなる話であった。
「いちごミルク」
いちごと牛乳と蜂蜜、バニラエッセンス数滴をミキサーで混ぜ合わせただけというシンプルな飲み物。絶対に美味いということが、材料だけでも分かる。
そんな洒落た飲み物を持って向かうは朝のランニング。近々マラソン大会が学校であるというあやりに誘われる形で、サチも参戦。眠気眼を擦りつつ、綺麗な朝陽や近所の人達との交流もしつつ、いちごミルクをゴクリ。
これ、いちごミルクのダイレクトマーケティングやんけ。
……苺って地味に高いんだよな……と財布に相談しつつ、ミキサーが家にないことに気付いた今日この頃であった。
「フォアグラ」
苺ですら高いと感じてしまう貧乏性のブログ主が、フォアグラという高級食材に手が出せるはずもない。フォアグラは世界三大珍味の一つで、太らせた鴨やガチョウの肝臓という知識しか持ち合わせていない。
フォアグラは普通、テリーヌやクレームブリュレという調理法で食べるという常識を学んだ。クレームブリュレは本漫画で学んだが、テリーヌはやっぱり分からないという料理に対する知見の薄さも同時に判明した(テリーヌはフランス料理で使う土鍋のようなもので、それを使った料理のこともテリーヌと言うらしい)。
今回はあえて、シンプルに焼いたフォアグラを楽しもうといあやり。
ただ焼くだけ、と彼女は言ったがそれは嘘だ。焼くという行為にも、様々な技量があるのだ。温めたナイフでスライス、片面だけに小麦粉を薄く付ける、小麦粉を付けた方をしたにしてまずは焼く、焼いたフォアグラをのせる皿を温める……列挙していけばキリがない。
一生縁のない食材かもしれないが、この知識が生かせる生活を、いつかは送りたいものである。
「オムライス」
オムライスは卵を使った定番料理の一つ。一人暮らし歴の長いブログ主も、卵にはよくお世話になっている。これさえあれば、夜食はどうにかなるものだ。しかし、オムライスを作ったことは、そういえばないような気がする。
そんなオムライスに、用事で帰宅が遅くなるというあやりに変わって、サチが挑戦する。その様子が微笑ましい。タマネギのみじん切りに感動し、ついでに目を痛くした。味見をしてみても、どうにも成功したのか自信がない。
四苦八苦しながらも、なんとかオムライスを完成させたサチ。あやりのように綺麗な形にはできなかった。それでも、彼女の心に届く料理が作れたのではないだろうか。
「オランジェット」
今日はバレンタイン。視点はサチとあやりから打って変わって、サチにチョコを作ってあげる絵梨視点となっている。サチの美味しいという言葉を聞くために、気合いを入れて頑張る絵梨が可愛い。愛されているサチが、羨ましい限りである。
そして彼女が作ろうとしているのは、オランジェットである。
オランジェット……検索した際にお洒落な菓子が出てきた。これ家庭で作れるんか? という問いへの答えは、この漫画にある。
チョコが45度になったら、水で29度まで下げる……最後にまた湯煎に戻して2度上げたら……というように1度単位で測りながら行われる、科学実験さながらの料理が行われていく。フランボアワーズとかコンフィチュールとか、ゲームの必殺技にありそうな食材がいくつも登場し、頭の中にはクエスチョンマークがいくつも浮かんできた。
チョコに縁の無い人生を送ってきたが、チョコを作っていた女子達は、こんな苦難を乗り越えてきたのですか?
「海鮮丼」
「オランジェット」のラスト、サチとあやりに宛てた父親からの手紙に、一緒に海外で暮らさないかと書かれていた。サチの寂しそうにしていた過去の様子を思い出し、彼女は海外に行ってしまうのではと考えた絵梨。
期末テストも終わり、サチ宅で執り行われた「おつかれさまパーティ」。そこで出された料理はタイトルにもなっている海鮮丼であった。海鮮丼といっても、ただの海鮮丼ではない。それおれが思い思いの海鮮を乗せたオリジナル海鮮を作る。それはまるで、好きな食材だけを巻いて作る手巻き寿司や、好きなケーキだけを取り分けるバイキングのような手軽さに加え、海鮮丼という豪華さも兼ね備えていた。
最高か? 海鮮丼が喰いたくなってきた。そんな美味しく楽しいパーティを、ただ一人、これが最後になるかもしれないという心持ちでいた絵梨。彼女にとって、二人の存在が大きくなっていた。
しかし、それは逆も然り。二人にとっても、絵梨という存在はかけがえのない大切な友達だったのだ。涙を誘われる朗らかなエピソードと幕引きであった。