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世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

勇者を殺せ――そのために転生を

情報

作者:月夜涙

イラスト:れい亜

試し読み:世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する

ざっくりあらすじ

世界最高の暗殺者が殺され、目を覚ますと――そこには女神がいた。彼女から「転生した先で勇者を暗殺して欲しい」という依頼を受ける。暗殺家業を営む貴族の子息に転生し、勇者を殺せるまで強くなるための特訓を開始した。気の遠くなるような勇者を殺すための生活が始まる。

感想などなど

世界最高の暗殺者の最期は、乗っていた飛行機にミサイルが撃ち込まれるという悲惨な最期であった。どうやら彼は依頼をこなしすぎていたようだ。用済みになれば、口封じされる運命であったらしい。

それでもギリギリの瞬間まで、脱出の手段を探っていた。老いを痛感している様を見る限り、もう少し若ければ、何とかこの状況を打破できたかもしれないという凄みが彼にはあった。

そもそも彼一人を暗殺するために、飛行機の運転手を殺し、戦闘機を飛ばして直接ミサイルを撃ち込むという徹底ぶりでなければ、彼一人を葬り去ることができないと判断した彼の上司が凄いのか。はたまた、そう思わせた彼が凄いのか。

判断が付きにくい部分ではある。

そんな男は死後に女神に会う。いわゆる転生のお約束。「あ、これから転生するんだな」「ルール説明があるんだな」という安心感がある。

女神曰く、これから転生する世界には、魔王と呼ばれる存在が誕生し、それに呼応するように勇者と呼ばれる存在も産まれるらしかった。それぞれが世界を滅ぼせるくらいの実力を持ち、勇者が魔王を滅ぼさなければ世界は滅亡するようだ。

勇者が魔王を倒してめでたし、めでたし……となればいいのだが、女神は「魔王を倒してもらった次に、勇者を倒してくれる存在がいなければいけない」と語る。どうやらこのままでは、勇者が魔王を殺した後、世界に牙を向き滅ぼしてしまうのだという。

それを防ぐべく、勇者としてではなく人間として、勇者を倒せる誰かが必要になる。その誰かに抜擢されたのが、地球では世界最高の暗殺者とされていた主人公であった。

 

勇者を殺させるという仕事を達成してもらうべく、女神は主人公に対して、それなりのことをしてくれるらしかった。

例えば。

彼が転生して産まれる先は暗殺貴族トウアハーデ家。貴族というだけあってかなり裕福で、それなりの財産と権力を兼ね備えている。暗殺貴族と呼ばれるだけあって、暗殺技術を学んだり、一般的な魔法を学ぶことだって訳ないというのは有り難い話だ。

また、この世界では生まれた時に最大で五つのスキルをランダムに与えられる。そのスキルの数は、なんと133851個。それらスキルがSランクからDランクまで位付けされており、Sランクになればかなり強力だが、生まれた時に貰える確率はかなり低くなる。

主人公はそれらの中から、5つのスキルを自分で選ぶことができる。考えるのが面倒くさいという女神に変わり、自分が異世界で勇者を倒せるくらい強くなるためのスキルを選定。

Sランク【超回復】:体力・魔力・自己治癒力……といったありとあらゆる回復力が上昇する。

Aランク【式を織るもの】:魔法を作り出すことができる。

Bランク【成長限界突破】:ありとあらゆる成長の限界がなくなる。

Cランク【体術】:体術の才能と補正を得る。

あと一つは……作品を読んでからのお楽しみということで。

そうして女神によるバフを受け、転生した彼の新たな名前はルーグ。世界最高の暗殺者は、剣と魔法の世界で新たな人生を歩み始めた。

 

この作品の面白いところは、勇者を殺すくらい強くなるためにしている努力が、次々と人々を救っていくということにある。それにより、前世では知ることのなかった愛も知り、彼を慕ってくれる仲間だってたくさんできていく。

例えば。

暗殺貴族ということもあり、彼に魔法を教えてくれる家庭教師がついた。彼女の名前はディア・ヴィコーネ。10歳にして大人相応に魔法を使える天才であった……が、彼女以上に彼の方が天才であった。スキル【超回復】により無尽蔵に行ってきた自己訓練により、魔力量が常人を遙かに超える化物レベルと化していたルーグ。さらにスキル【成長限界突破】により、魔力量の限界がないというのも、彼女を驚かせる要因となっていた。

さらにスキル【式を織るもの】によって、彼女の教えから新たな魔法の開発に勤しむ。ディアからしてみれば、彼との生活は教えること以上の学びと発見がある日々だったに違いない。

そして互いに惹かれ合うにも、そう時間はかからなかった。

そんなルーグは罪な男であって、自身の部下を増やすために、魔法を使える少女をたぶらかしていた。本人にはそんな自覚はないのだろう。だがしかし、森に迷い込んだ捨てられた少女を救い、孤児院で奴隷として売られそうになっていた少女を救い出し……そんな彼女らを自身の立派な部下として育て上げた。

可愛らしい女性が拷問を学び、気配を消す方法を学び、段々と暗殺者として力を付けていく過程は末恐ろしい。

そんな男が思春期らしい悩みを抱えるのもまた、どこか微笑ましく見てしまうのは、自分だけだろうか?

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