※ネタバレをしないように書いています。
勇者を殺せ――そのために転生を
情報
作者:月夜涙
イラスト:れい亜
ざっくりあらすじ
魔族殺しを使って魔族を殺すことに成功したルーグ。そんな彼の前に現れた、魔族がなりすましているグランフェルト伯爵夫人。魔族との繋がりができた時、グールの下に第二王子暗殺の依頼が舞い込む。
感想などなど
ふと忘れそうになるが、ルーグは暗殺貴族である。魔族と戦ってばかりの聖騎士という職よりも、そちらの方が本職だ。そんな彼の最終目標は、勇者エポナであるということも忘れてはいけない。
第三巻では魔族を殺し、人の知らない魔族のルールというものがあることを知ったルーグ。さらに魔族が人の社会に溶け込んで、しかもグランフェルト伯爵夫人という国の上層にまで入り込んでいるということを知ってしまった。
今優先すべきは情報を集めること。
魔族だけが知っていて、人の知らない世界のルール。それを聞き出すべく、グランフェルト伯爵夫人と協力関係を築いた。といっても互いに腹の探り合いは継続、自分の持っている情報の全てを差し出すような愚考は冒さない。この魔族が嘘をついている可能性も加味しつつ、言動に最善の注意を払っての舌戦が、冒頭およそ50ページくらいは行われていく。
その戦いに、無自覚なノイシュも巻き込まれていくというのが、どうにも嫌な想像を駆り立てる。国を立て直すという大きな理想を掲げた彼が、これからどのような道を歩むのか。
この第四巻の最後の方で、読者の嫌な想像が的中するという予言を残しておこう。
第四巻では暗殺者としての職務を前半に、聖騎士としての職務を後半にという構成になっている。とはいっても、前後半の内容が全く別物という訳ではない。依頼された暗殺は国の命運を大きく左右するような重要な案件であり、魔族との関係性にも大きく関わってくるのだから。
なにせ暗殺対象は国の第二王子リラク、つまりは次期国王候補の筆頭である。
その第二王子に唾を付けて、思い通りに操ろうとしていたのが魔族であるグランフェルト伯爵夫人であり、暗殺を依頼してきたのがファリナ姫という美しき御姫さまなのだから、さらに驚きは増すというものだ。
この御姫様が、油断すると食われてしまうのではというほどに、強く賢く、利用できるものは利用するという狡猾さを兼ね備えている。
依頼するに当たって、最初に自分の姿は見せず、影武者を出すという警戒ぶり。こちらを試すという意図の方が強いのだろうが。さらに魔法は光属性を操り、昔からの馴染みであるというルーグと並んで学年主席のノイシュを、子供といって弱者と切り捨てる。それ相応の実力はあるのだろう。
そんな彼女から依頼された第二王子暗殺。王族殺しは言うまでもなく重罪だ。だが、王というのは敵を作るものだ。暗殺されることなどないよう、徹底した警戒と防備が張り巡らされている。
昼間の起きている時間は、周辺に警備がついている。当たり前だ。この間に襲撃して殺すというのは、ルーグにとって簡単だろう。だが依頼されているのは “暗殺” だ。犯人がバレずに、できれば殺されたということすらも気付かせないというのが、世界最高のプロの技である。
その期待に添って、ルーグは完璧な仕事をこなした。自分の唾を付けた相手が殺されたことを知ったグランフェルト伯爵夫人がどう思うかは、とりあえず置いておこう。
良い印象は抱いていないだろうが……。
依頼されたから殺す。魔族もその延長線上にいて、その依頼をこなすためならば、どんなものだって利用する。だが、家族であるタルトやディアを死なせるような無茶はしない。そのためならば、 ”それ以外の犠牲” は何だって厭わない。
そう考えると、聖騎士という立場はとても便利だなと思う。人からの信頼も、人々を動かす権力も兼ね備えている。
だからといってそれを振り回すようなことはしない。ルーグという男の、依頼に対する向き合い方が良く分かったような気がする第四巻であった。