工大生のメモ帳

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最果てのパラディンⅡ 獣の森の射手 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

こんどこそ、ちゃんと生きたい

情報

作者:柳野かなた

イラスト:輪くすさが

試し読み:最果てのパラディン II 獣の森の射手

ざっくりあらすじ

街を出て北へと向かっていたウィルは、エルフのメネルドールと出会う。彼とはすぐに別れ、近くの村へと向かっていると、そこは山賊からの襲撃を受けていた。その山賊のメンバーの中に、先ほど会ったメネルドールがいて……

感想などなど

主人公ウィルは、この世界に生を受けてからというもの、人と会話していない。ミイラか、ゴーストか、骸骨か、はたまた神という四種族としか言葉を交わしていないのだ。とはいっても、普通の人と差異のない感情がある彼ら。ウィルにとっては大切な家族だ。

……まぁ、骸骨剣士ブラッド、ミイラ神官マリーは、この世から離れて本当の意味で死んだのだ。もうウィルには家族がいない……と思ったら、ガスはまだ数年残っているのだという。

そんな特異な出生の持ち主・ウィルは、『街に封印されている上王の問題をなんとかする』『信仰者がおらず力を失いつつある灯火の神の問題をなんとかする』という無理難題を背負い、街の外に出て旅をすることとなった。

この旅において、戦闘面でのウィルの苦労はないに等しい。なにせ伝説を残してきた剣士、神官、魔法使いの教えで鍛えられたのだ。異常とも思える強さを有し、強敵を薙ぎ倒していく。

だが。どうしてだか。ウィルはとても苦悩し、辛い道を歩むことになる。

強さだけが絶対のルールで、この世界の誰もが付き従ってくれるほど、安く出来た世界ではない。人を動かすのは感情であり、人には良心だけでなく、「他人を騙そう」「力尽くで奪ってやろう」というような悪意だって、心の片隅に抱えている。

これから先、相棒として隣に立ってくれることとなるエルフ・メネルドールだって、ないのならば他人から奪ってやろうとする悪意があった。だからこそ、ウィルが街を出て最初に遭遇する事件を起こしたのだ。

 

ウィルがこの世界で初めて言葉を交わした人間は、エルフであった。「エルフは人間なのか?」という突っ込みもあるかもしれないが、メネルドールは人とエルフのハーフらしい。人としても、エルフとしてもカウントできる分、かなりお得だろう(?)。

そんな彼と、二人が同時に狙っていたイノシシを分け合ったウィル。弓を持ち、精霊を使役する術を華麗に使うあたり、冒険者としてかなりの手練れであることが予想できた。

幸いなことに言葉は通じ、話も分かる相手だったこともあり、少しばかり会話をした。

そこで「村に案内して欲しい」と言ったウィル。それを断ったメネルドール。

怪しげな冒険者を、そう簡単に村に案内できる訳もない……と納得したウィル。そのまま二人は別れ、近くにあった村に立ち寄ろうとした。だが、その村は何者らから襲撃を受けていたのだ。

その襲撃者たちのリーダらしき人物が、先ほど別れたメネルドールだったのだから驚きだ。彼が村にウィルを案内しなかった理由は、これから襲撃をしようとしているからなのだろうか。

しかもその襲撃者たち――つまりはメネルドールの村の者達――は、襲撃を受けた村のすぐ近くだというのだから、さらに困惑する。これまでそれなりに仲良くしてきた関係性だったにも関わらず、村を襲撃するに至った経緯があるのではないか。

そこで語られるのは、村に突然に押し寄せてきた魔物の群れと、それにより蹂躙されて近寄れなくなってしまった村の惨状だった。つまり、もう住むことができず、このままでは生き残り達が冬を越せないとなったから、隣の村を襲撃して食料を奪おうとしたのだ。

その解決のために、メネルドールを仲間に加えて、村を占拠しているという魔物の討伐に向かったウィル。その戦闘はあまりにもあっさりとしている。苦戦? ないない。余裕で蹂躙である。

 

この作品における主題は、ウィルの精神的な成長にあると思う。メネルドールという、村を守るために、隣村を襲撃するという道を選んだ男を仲間に加えるという選択。メネルドールがそれほどまでに村を守りたかった理由や過去を知り、彼も様々なことを考えた。

その後も魔物の襲撃に苦しんでいる村があることを知った。最近はその襲撃も増え、どうやら森の奥に黒幕がいるということまで知った。それらを解決できるだけの力が、自分にはあるということも、よくよく分かった。

その戦いは一人でもできるかもしれない。だが、それでは意味が無い。

冒険者たち、村々の人たち、挙げ句の果てには国家権力まで味方につけていく。

ただ力をふるうだけが救いではない。そんなことを読者も、ウィルも学んでいく第二巻であった。

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