工大生のメモ帳

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最果てのパラディンIV 灯火の港の群像 感想

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻】

※ネタバレをしないように書いています。

こんどこそ、ちゃんと生きたい

情報

作者:柳野かなた

イラスト:輪くすさが

試し読み:最果てのパラディン IV 灯火の港の群像

ざっくりあらすじ

《鉄錆山脈》での戦闘を終え、戻って来たウィル達の日常を描いた短編集。

感想などなど

『聖騎士と思い出話』

相棒メネルと、夜、思い出話を語り合うプロローグ。ここから先で描かれる短編達が、二人がこれから夜通し語り合うであろう内容となる。《無敵の巨人》やウィルの恋愛事情など、気になる言葉が飛び出してくる。

それらの真相は、これから先を読めば分かるのだろう。

……まぁ、このブログではネタバレをしないんですけどね。初見さん。

 

『聖騎士と求婚の話』

このタイトルだとウィルの恋愛事情かと誤解されるかもしれない。そういった内容を期待された方には申し訳ないが、ここで描かれるはウィルと共に竜退治に赴いた仲間・レイストフさんと、バグリー神殿長の娘・アンナさんの恋物語である。

この説明の時点でお察しの方もいるかもしれないが、名は上がっているとはいえ冒険者の男と、神殿長の娘という身分の差が大きすぎる両者の恋は、そう簡単に進むはずがない。何を隠そう、神殿長は娘を溺愛しているのである。

まぁ、娘さんはめっちゃ可愛いし。溺愛するのも仕方ないかもしれない。

だが、この二人は両思いなのだ。互いにウィルに対して、自身の想いの丈――つまりは悩みを打ち明けてくれるのだが、もう二人ともほぼゴールインしている。あと一歩踏み出せば、この恋は叶うというところまで来ている。

だがその一歩が遠い。特にレイストフの方だ。

彼は冒険者であり、いつ死んでもおかしくない危険な現場に足を踏み入れることも珍しくない。そんな彼が、自分の想いと向き合い、考えに考え抜いた結果……。

ウィルとの決闘に落ち着いたらしい。

レイストフが抱えた問題、過去の確執……それら全てがこの短編に詰まっている。

 

『聖騎士と詩人の話』

ウィルには知り合いの詩人がいる。思い出せないという方は、ウィルの冒険譚を詩にしてくれた小人族・ビィという名前を聞けば分かるのではないだろうか。そんな彼女の依頼で、《賢者の学院》へと向かうことになった。

《賢者の学院》とは。

《創造のことば》の探求者たる魔法使いたちの学び舎。我々でいうところの大学のような場所である。しかしそうはいっても、この世界における学院は酷く閉鎖的だ。

遠い遠い過去に、この学院を卒業し、権力や戦争に利用された魔法使い達が数多くいたそうな。それからは世俗から切り離した教育を施しているらしかった。そのため、外から客を招き入れるなどということはもってのほかである。

それでもビィは学院に入りたいのだと語った。そのために学院があるという森に入り、随所に仕込まれた《しるし》が、二人の学院へ向かうことを拒んでいた。それでも学院に行きたいと強く語るビィに背中を押され、そのまま学院へ突き進んでいく。

なぜビィはそれほどまでに学院に行きたいのか。その理由は、彼女の吟遊詩人としての生き様にあった。思わずビィに惚れそうになる一幕である。

 

『聖騎士と無敵の巨人』

いよいよウィルの恋物語である。期待している人も多いことだろう。いない? 期待しておいてくれ。

今回はメネルと共に、《鉄錆の山脈》に残している財宝を取りに行く物語である。その道中、《無敵の巨人》と呼ばれた巨人のいる場所を抜けなければいけないという話になり、そいつと戦うことになる。

無敵と冠されるだけあって強かった。なにせ自分よりも小さき者の攻撃を、全て無効化するという《ことば》の力で守られているというのだ。そのことも知らない初見で挑んだウィル達はあっさりと敗北。そらそうだ。勝てるはずもない。

しかも、その戦闘でウィルは死にかける。そんな彼を救ったのは、灯火の女神であった。彼の祈りを聞き届け、いつもウィルのことを見守ってくれている彼女。これまで描かれることのなかった彼女の素顔が描かれるこの第四巻。水墨画のような印象的なイラストが多い本作の中で、一番美しかったのは、灯火の女神だと思う。

ネタバレをしないと言いながら、ウィルの思い人が分かってしまった方もいるかもしれない。そのことはそっと胸に秘めて、この短編を読んで欲しい。かつて引き籠もってそのまま死んだ男の決死の愛を、見届けてあげて欲しい。

 

『聖騎士と手紙の話』

思い出を語り終えたウィルが、その思い出を一番に語りたい相手……きっと今でもどこかで見守ってくれているだろう。

心温まる短編集であった。

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