工大生のメモ帳

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月とライカと吸血姫 感想

【前:な し】【第一巻:ここ】【次:第二巻】

※ネタバレをしないように書いています。

宇宙へ行きたい

情報

作者:牧野圭祐

イラスト:かれい

ざっくりあらすじ 

いまだ有人宇宙飛行が成功していなかった時代。ツィルニトラ共和国連邦の最高指導者は人間をロケットで宇宙に送り込む計画を発令。その裏では、実験飛行に人間の身代わりとして吸血鬼を使う『ノスフェラトゥ計画』が進行していた。

感想などなど

スプートニク計画というものを御存知だろうか。たびたび創作で扱われるネタであるため、知っている人も多いかもしれない。ノンフィクションのみならず、村上春樹著「スプートニクの恋人」ではストレートにタイトルにまでなっている。たしか理科の教科書にも載っていたように記憶している(気のせいかもしれない)。

一言で簡単に説明するならば、人工衛星を打ち上げるというソ連が打ち出した計画である。道中、アメリカに先を越されるなどの紆余曲折はあったものの、宇宙への夢を抱き続けた多くの人々の願いが積み重なっていく計画であることに変わりはない。

そのスプートニク2号機が、本作のモチーフになっているのだろう。

スプートクス2号機では、ライカと名付けられた犬が乗せられてロケットが飛ばされた。本作でもライカと呼ばれる吸血鬼が飛ばされる。史実を知った上で、ソ連とアメリカとの当時の関連性などを脳裏に浮かべながら読み進めると楽しめるかもしれない。

 

本作ではライカという名の吸血鬼が登場する。

吸血鬼……さて、吸血鬼について自分が知っていることを洗いざらい吐き出していただきたい。

例えば、吸血鬼に数々存在するとされる弱点についで。

「にんにくが弱点」「十字架が弱点」「流れる水が弱点」「日光が弱点」「聖水が弱点」エトセトラ、エトセトラ。

残念なことに、その全ての常識が本作では通用しない。強いて言うなら「日光が弱点」はあっていると言えるだろう。日光に当たって砂になってしまうようなことはないが、肌がヒリヒリと焼け痛くなるらしい。

例えば、吸血鬼が最強とされる理由。

「不死身」「空を飛べる」「夜目が利く」「脅威の再生能力」「脅威の身体能力」「長寿」エトセトラ、エトセトラ。

悲しいことに、「夜目が利く」しか本作の吸血鬼には当てはまらない。むしろライカは高所恐怖症であるため、空は苦手といっていいかもしれない。

吸血鬼というのだから、一応血は吸えるようだ。しかし、血は吸わずとも生きていけるので、もう吸血鬼としての存在意義すら怪しい。

しかし、何故そのような多くの設定が付与されたのか? 本作の設定では、『教会が吸血鬼を悪者にすることで、神の力を信じさせよう』とするために、そのような噂を流布したようだ。現実の教会も力を誇示し、お布施を集めるために色々していたので大差ない。

 

吸血鬼(タイトルでは吸血姫だが)であるライカは、宇宙ロケットに乗せる実験体として、宇宙ロケットの開発を行う基地へとやって来た。

ここで理解して欲しいのは、ライカは実験体であるということだ。吸血鬼と人間の容姿は大差なく、肉体的構造にも違いはほぼない。ならばライカも搭乗員としての扱いを受けたとしても不思議はない。

……しかし、それはあくまで本作を読み進める読者視点の考え方だ。人々の吸血鬼に対する認識は、畏怖の対象であり、人ならざる悪魔のような存在であった。基地内で出会う人は皆、ライカを恐れ、蔑むような視線を向ける。

そんな実験体のマネージャーとして、彼女の世話や訓練の教官という仕事を任されたのが、本作における主人公のレイである。

当然だが、レイの吸血鬼に対する知識は我々と大差ない。初対面では血を吸われないかと首元を隠し、基地を案内する際に教会の前は通らないように最善の注意を払おうとし、昼飯は別個に血を用意しなければならないのだろうか? と首を傾げている。

説明した通り、別に血を用意する必要性はないし、教会の前を通ろうが、うっかり聖水をぶっかけられようが、ライカとしてはどうということはない。宇宙船に乗る搭乗員として訓練を受け続けてきたエリートであるレイであっても、吸血鬼のことは詳しくないし、その程度の認識であったということだ。

人と吸血鬼……宇宙飛行士と実験体……二人の距離は近いようで遠い。

しかし、二人が持つ宇宙へと持つ憧れだけは同じだった。宇宙ロケットに乗り込むための訓練を通して、二人の距離はゆっくりと近づいていく。そして、徐々に語ってくれる互いの過去。

まず前提として。

ライカはどうして実験体として基地にやってくることになったのだろう? 実験体として、ライカが受けてきた差別は相当なものだった。実験体という時点で、基地上層部は死んでも構わないというような扱いをしている。

なかには「人類よりも先に吸血鬼が宇宙へ行くなんて……」と明らかな敵意を向けてくる人間もいた。

それを乗り越えてでもなお、宇宙を目指すライカ。それに応えようとするレイと二人。

二人が紡ぐ物語、その結末で見る景色を、是非ともご覧あれ。

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