※ネタバレをしないように書いています。
語り継がれる伝説
情報
作者:谷川流
イラスト:いとうのいぢ
試し読み:涼宮ハルヒの憤慨
ざっくりあらすじ
生徒会長がSOS団の活動は認められないとして、文芸部の部室を取り上げようと権力を行使してきた。それに対抗すべく、文芸部としての活動実績を残すべく部誌の製作に取りかかる「編集長★一直線!」、怪談話を持ちかけられてその調査に乗り出す「ワンダリング・シャドウ」の計二本。
感想などなど
『編集長★一直線!』
皆さんは小説を書いた経験はあるだろうか。かくいうブログ主は元々文芸部員であり、稚拙ではあるが幾つかの作品を書き、部誌に載せている。自分のいた文芸部はもう廃部となっており、バックナンバーも含めて見ることはもう叶わない。
小説を書くなんて、恥ずかしい黒歴史と思われるかもしれない。実際、自分の人には話せない黒歴史の一端を、自作のいくつかが名を連ねているのだが、それはひとまず置いておくとして。
文芸部の活動の本分は、小説を書くことであると思う。どんなに下手でゴミでカスでクソであろうとも、自分が書いた作品を読んで貰って下手なりに感想を貰えることの喜びは、何事にも代えがたい。あの楽しみが忘れられないからこそ、大人になった今でもこんな駄文を書き連ねているのかもしれない。
しかし、今の文芸部はどうだ? 何とも酷い有様ではないか。
部室はSOS団という意味不明な団体に選挙されている。部員は長門有希という大人しめだが身体能力が桁外れな女子高生一人ときた。小説を書いている姿は確認できず(消失の世界線では書いていたが)、例年通りであれば発行されていたはずの部誌もない。
そんなブログ主の怒りを代弁するが如く、本学の生徒会長が怒った。文芸部がこのまま活動しないというのであれば、部室は別の部活に渡すと言ってきたのだ。SOS団としては黙ってられない。現状、文芸部が快く(?)部室を貸してくれているから、何事もないかのようにSOS団は活動できているというのに、別の部活が部室を使うとなると、これまで通りの活動はできなくなると言って良いだろう。
なるほど、これは遠回しにSOS団を潰そうとしているのだ。
という訳で。SOS団が総出で小説を書いて部誌を発行することになった。キョンや長門、朝比奈さんの書いた個性豊かな小説は、是非とも本編を読んでいただこう。それぞれの個性がこれでもかと発揮された内容は、微笑ましさと笑いありである。
『ワンダリング・シャドウ』
幽霊の正体見たり枯れ尾花。疑心暗鬼、不安と恐怖で満たされた状態では、枯れ尾花だって幽霊に見えるものである。そもそも幽霊なんていないのだから、「幽霊を見た」という体験談は、それこそ風で揺れる草木を幽霊と見間違えたか、はたまた作り話のいずれかだろう。
しかしだ。もしもハルヒが幽霊と会いたいと思ったらどうだろう。どうなるかはあまり考えたくない。見方を変えれば、ハルヒが不機嫌になると現れる神人だって、一種の幽霊的な存在と言っていいような気さえする。
そんなハルヒの元に、幽霊に関する相談ごとが舞い込んだのだ。
その話を持ってきたのはハルヒのクラスメイト、つまりはキョンのクラスメイトでもある阪中という良いところのお嬢さんである。どうやら近頃、家で飼っているルソーの散歩をしていると、”とある地域”に差し掛かると、足を止めて一向に進まなくなるようになったのだという。それがルソーだけならばまだしも、どうにも近隣の犬は同じようなことをしているようなのだ。
つまり最近になって、犬が近寄りたくないような場所が発生――そこに追い打ちを掛けるように、近所の犬の一匹が体調を悪くした。明確に理由の説明できない不思議な現象に、霊的な存在を結びつけるのは人間の専売特許である。ハルヒも「犬や猫には人間には見えないものが見えていたりするから、それを嫌がっているのかもしれない」と適当な推測を立てた。
そんな謎の現象を解決すべく、巫女服を着た朝比奈さんを連れて、阪中さんの近所にまで足を運んだSOS団。調査を進めていく内に、『犬が近寄らない地域をマッピングしていくと綺麗な円形になること』『体調を崩したという犬の原因は未だに不明』ということが分かっていく。
しかし、その肝心な原因がやはり分からない。
その原因というのが完全に隙を突かれるような内容であった。よくよく考えると、この「涼宮ハルヒシリーズ」においては幽霊に匹敵するような理解しがたい存在と、普通に一緒に遊んでいるような世界観なのだ。
SFでありながら日常としての景観が崩れないバランスで構成された中編であった。