工大生のメモ帳

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涼宮ハルヒの消失 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

語り継がれる伝説

情報

作者:谷川流

イラスト:いとうのいぢ

試し読み:涼宮ハルヒの消失

ざっくりあらすじ

ある日、学校に向かうと涼宮ハルヒが消えていた。誰に聞いても彼女のことを知らないと言うのだ。朝比奈みくるとキョンが出会った過去が消え、小泉一樹は転校して来ず、長門有希は宇宙人ではなく、文芸部唯一の部員として、部室の片隅に座り本を読んでいる大人しい少女となっていた。

感想などなど

キョンにとって涼宮ハルヒという存在はどのような意味を持つのか。

のらりくらりと達者な口で、分かりきっているその返答を隠し続け、自身の不幸を嘆き続けることが得意なキョンという男が、いざSOS団という繋がりを失ったとき、どのような行動を取るのか。

これまでの三巻で描かれている学園生活は、ハルヒに振り回され続ける苦労の連続そのものであった。キョンの友人である谷口が「俺には無理だ」と零したハルヒの暴虐無人ぶりに付き合いつつ、あと一歩のところで世界が作り替えられるという危機的状況をキスで乗り切った異常なる青春の日々。

いつ逃げ出したっておかしくない環境である。ちなみにブログ主なら逃げる。あの自己紹介の時点で、近づいてはいけないリストに涼宮ハルヒの名前と容姿が登録されていることだろう。

だが、逃げだそうにも逃げ出せない状況だったことは言うまでも無い。ハルヒがキョンを離さないだろうし、小泉一樹の所属する機関も黙っていないだろうし、朝比奈みくるは泣き出してしまうだろうし、長門は黙って本を読んでいるだろう。

そんなキョンが、ハルヒの呪縛から逃れる――つまりはSOS団との繋がりを断つことができる機会が訪れた。

涼宮ハルヒの消失である。

 

時はクリスマスを間近に控えた12月。SOS団が、いつもの文芸部室でクリスマスに鍋-パーティをしようと企画していた頃であった。ちなみに文芸部室は火気厳禁である。

涼宮ハルヒが北高から消失したのである。

ただの消失ではない。

ハルヒが学校にいたという痕跡が消え失せ、ついでに九組が物理的に消失し、朝比奈みくるとキョンは面識がないことになっており、小泉一樹は転校してきておらず、長門有希もまたキョンとの面識がなくなっていた。

つまりは過去が変わったとしか思えない。こんなことができる人間の心当たりはハルヒくらいなものだが、その肝心要のハルヒがいないのだから確認のしようがない。頼りになる長門有希は、宇宙人ではなく、どこにでもいるような平凡な女子高生となり、いつもの無感情は棒読み口調ではなく、恥ずかしげに小さな声で話すようになっていた。

これは詰みか?

しかし、こんな状況になる前の長門有希が、第一巻で渡してくれた本に挟まれた栞にヒントを残してくれていた。感謝してもしきれない。流石は長門。栞に書かれていた文言は下記の通り。

『プログラム起動条件・鍵をそろえよ。最終期限・二日後』

いつも言葉が足りない長門だが、これは流石に足りなすぎませんか。鍵をそろえよ、と言われましても。幾つなのか、そもそも鍵とは何なのか。

それでもキョンは鍵を揃えるために奮闘する。ハルヒに会いたいがために。

 

これまでたくさんの事件に巻き込まれてきた。その事件の中心にはハルヒがいて、SOS団はその被害者の集まりという認識を抱いている人もいるかもしれない。ハルヒという世界を滅茶苦茶にする可能性を持つ存在を、見張るという使命感だけが、彼・彼女らをそこに留めている要因だと考えているかもしれない。

それは違う。

そこにいることが楽しいからこそ、ハルヒという一個人に対して親しみを感じているからこそ、SOS団は成立しているのだ。正しく奇蹟のバランスである。

SFと日常が奇蹟のバランスで両立し、これまでのエピソードに散りばめられた伏線の回収も見事に行われた第四巻。傑作でした。

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