※ネタバレをしないように書いています。
転生したら、まともな人生を
情報
作者:理不尽な孫の手
イラスト:シロタカ
ざっくりあらすじ
ずっと離れて暮らしていた妹のノルンとアイシャと、一緒に暮らすこととなったルーデウス。その生活は苦難の連続だった。そんな中、ルーデウスは前世での兄の姿を思い出していた。
感想などなど
母ゼニスを探す危険な旅へと足を踏み出したパウロは、その旅に同行させる訳にはいかないと、まだ幼いノルンとアイシャを、息子ルーデウスの元に預けることにした。そこで二人をルーデウスの元に運んで貰えるようルイジェルドに頼んだ。
そうして妹たちとルーデウスが久し振りに顔を合わせたのが第十巻の終盤である。この場にエリスがいないのが残念ではあるが、ルイジェルドとの再開は喜ぶべきイベントではあるし、妹たちとの同居生活は家族として仲睦まじくも騒がしい日常の始まりを予感させた。
だが、これまで顔を合わせることもほとんどなく、兄妹という認識もないであろう彼女達との生活は、かなりの苦難の連続であった。家族という関係性を、血の繋がった他人という者もいる。家族だから仲睦まじくしろという固定観念という名の押しつけは、とても残酷なものなのかもしれない。
だが、ルーデウスは彼女達と仲良くしたい、助けたいと思っている。そのことだけは忘れてはいけない。
タイトルを見返し、主人公のどうしようもない前世の記憶が思い返され、これは転生物だったということを実感させられる。改めて思うが、本当にこいつはどうしようもない生活を送っていたんだと知る。
教師に救いの手を差し伸べられても、それをはねのけて怒鳴り散らす。ただ金と飯を貰い、基本的にネットとベットの間を行き来する生活。昔――といっても小学校とか中学校くらいには、パソコンを触ったくらいで両親に褒められたり、勉強もそれなりにできて、友人だって多かった。
それが歳をとるにつれてどうだ?
そもそも外に出ることがない。何かに打ち込むということもない。仕事もしない。彼は生きているようで死んでいたのではないかと思う。両親が死んだ時には葬式にもでなかった。それで兄に叩き出されて、高校生達を庇って事故に遭って死んだシーンが、第一巻のプロローグだ。
そんな彼が人生をやり直して、妻を迎えるに至ったのは素晴らしいことだろ思う。それは全て彼の努力と覚悟の賜物であろう。
彼は前世における死んだような生活を、ルーデウスは払拭できたのだろうか?
その問いに答えるとすれば、否であろう。この第十一巻、新たに家族として加わったノルンとアイシャとの生活を通して、彼は自分と接してきた両親や兄の姿を思い出していた。
なんとノルンが引き籠もるのである。
ノルンはパウロと妻ゼニスとの子供である。一方、アイシャは侍女リーリャとパウロとの娘だ。いわゆる異母姉妹という奴だ。二人とも同じ日に産まれているため、年齢も同じになる。
しかし、妻の子と、侍女の子ということになれば、本人達の心情は複雑だ。特に侍女の娘という立場であるアイシャは、世間から妾の子という色眼鏡で見られてきた。その逆境をバネに努力し、ルーデウスに対する憧れを抱きつつ、その才能を開花させてきた。そもそも魔法や勉学の才能があったのだろう。それに加えて努力を惜しまないという性格が組み合わされば、もう敵はいない。
一方、ノルンといえばアイシャとは双子のような扱いを受けてきた。だが、万能で何でもできてしまうアイシャと比べられ、劣等感に苛まれてきた。この第十一巻にて、アイシャと同じ学園に入学するのだが、そこではルーデウスの妹ということで、兄ルーデウスと比べられて、さらに自尊心をズタズタにされていくこととなる。
それ意外にも、色々な問題――ルーデウスが大学の女生徒達のパンツを盗ませていた事件、妹が虐められていると思った兄が教室に殴り込み事件――等々が重なり、引き籠もりに拍車がかかっていく。
そんな妹視点からも物語が紡がれていき、それぞれの視点で引き籠もりという問題にぶつかっていく。かつて引き籠もりだったルーデウスが、どのように問題解決に動いていくのか。
ルーデウスが過去を払拭して大きな一歩を踏み出すために重要な巻であったと思う。これまでの内容を振り返りつつ、色々な意味で感慨深い話であった。