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【漫画】熱帯魚は雪に焦がれる7 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

いっそ蛙になれたら

情報

作者:萩埜まこと

試し読み:熱帯魚は雪に焦がれる 7

ざっくりあらすじ

小夏と仲直りしたい小雪は、自分が何をしてしまったのか分からずにいた。一方小雪も、先輩に対して酷いことを言ってしまったことを、変わっていく先輩が自分から離れていくことに嫉妬していたことを、後悔しつつ孤独に沈んでいく。

感想などなど

第六巻はかなり難しいと思った。時間を空けて読むと、何が起こったのか分からなくなっている。かくいうブログ主はその現象に見舞われ、読んだ感想を言語化する作業を進める手が重くなっていた。

思い返してみると、小雪を取り巻く環境は大きく変わった。水槽に囲まれた水族館部が、唯一の居場所だった小雪がゆっくりと外の世界に足を伸ばしていった。なにせ第七巻のほとんどが、水族館部の活動場所だった部室の外だった。

彼女がクラスメイトとカラオケや買い物に行くシーンを想像できただろうか。新入部員を集めるため、学校を駆け回り勧誘ポスターを貼って回ることを想像できただろうか。第一巻の寂しげで、山椒魚を想起させる寒いほどひとりぼっちな彼女はそこにはいない。

ただ実際は、寒いほどひとりぼっちだったのは小夏自身だと気付いた第七巻。二人は孤独で繋がって、そこから一人だけ飛び出そうとしている小雪を、離さないとしていたのが小夏だった。

そう気付いた小夏が取った行動に、共感もとい納得ができるかどうかで作品に対する評価は二分するように感じた。孤独から解放されようとする小雪に対し、彼女の手を引こうとする小夏。そんな自身の行動に対し、「それって誰のため?」と自問自答する。

確実に変わっていく小雪の変化を受け入れられない。自分のそばに居て欲しい。そんな感情の発露が「小雪のばか……」という台詞に現れている。

 

小雪は酷く困惑した。それはそう。小夏側の視点も見ている読者ですら困惑するのだ。理解しようにも小夏は小雪からの連絡を全て無視した。それでは気持ちを知りたくてもできない。

ここから小雪は小夏のことをずっと考えることになる。メッセージを送っては無視され、どうにかできないかを悩み、授業中にまで返信が来ないかを確信し続ける日々。この第七巻の序盤(およそ4分の1くらい)は、そういった苦悩の時間が淡々と描かれていく。

小夏の方も、手を振りほどいてしまったことに後悔していた。彼女の無理した笑顔は、読んでいて辛いものがある。ぽっかり空いてしまった心を埋めてくれる者はおらず、卒業が近づくにつれて沈んでいく。

そんな彼女を水面にまで引っ張り上げてくれたのは、小雪先輩だった。

覚悟を決め、勇気を持って一歩踏み出してくれた先輩とのシーンは綺麗だ。二人が救われるためにしたことといえば、自分の感情を明確に言葉にして吐き出し合っただけだが、そこに至るまでがあまりに長かった。

ここからが二人にとってのスタートなのではないだろうか?

 

第七巻の後半は、以外にも二人を見守っていた大人視点を中心にして描かれる。子供が悩んでいた時に何もできなかった無力感と、これから先どのように向き合っていけばいいか考えた結果のアンサーが示される。

これまで真面目な優等生で、大人からしてみれば楽だっただろう小雪が、初めてぶつかった壁。その悩みを泣きながらに語った娘に対し、どのような接し方が正しかったのか分からない。

彼女はこれまで言いようのない孤独を抱えていた。それを救ったのは小夏だった。本当は親である自分たちが支えてあげるべきだったという言葉が、とても辛い。

対する小夏は都会から親の都合で田舎に引っ越しせざるを得なかった。小夏は明るく言うが、引っ越してくる過程でかつての居場所や人間関係は全てがリセットされている。彼女が孤独を恐れ、明るく振る舞っているのは、そういったリセットを怖いと感じているからなのではないだろうか。

彼女達の物語はとても難しい。

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