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【漫画】熱帯魚は雪に焦がれる8 感想

【前:第七巻】【第一巻】【次:第九巻】
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※ネタバレをしないように書いています。

いっそ蛙になれたら

情報

作者:萩埜まこと

試し読み:熱帯魚は雪に焦がれる 8

ざっくりあらすじ

東京の大学進学に向けて、本気で受験勉強に取り組み始めた小雪。先輩が東京に進学することを聞いていなかった小夏。しかし、互いに言いたいことを言い合ったならもう大丈夫……そのはずで――。

感想などなど

高校卒業後の進路は大きな節目である。

その後の人生を大きく左右する決断という自覚を、その当時は抱かないかもしれない。しかしながら、間違いなく死ぬまでの生き方を左右することは疑いようがない。大学に行くか、就職するか。地元に残るか、外に出るか。

成績優秀、眉目秀麗、誰もが憧れる優等生・小雪は、海洋学部がある東京の大学に行くことに決めた。誰もがその決断に納得し、心配などしなかった。「小雪さんなら大丈夫」という絶対的信頼が、彼女の孤独を強めていることを知らずに。

そんな彼女はついに覚悟を決め、水族館部は夏休み前に抜けることまでを早々に決めた。

ここで読者が気になるポイントといえば、東京の大学に行こうとしていることを小夏には話していないという点だ。広瀬さんとは色々とそういう話をしていて、東京の大学に進もうとしていること、それで悩んでいることなどを打ち明けている。

そんな超重要な話を、小夏は、小雪からではなく、広瀬さんからでもなく、友達の友達が話しているのを聞いて知る。ずっと近くにいて、第七巻ではいろいろと吐露し合ったのに知らないことがまだまだあるということを、小夏は突き付けられたわけだ。

さてそんな中、小雪は水族館部を卒業する。これまでの活動を見てくれた人たちが――小雪先輩のことを高嶺の花のように扱わない後輩たちが――たくさん入って安泰な水族館部。二人きりだったころとは比べ物にならないくらいに騒がしい部室の中で、たった一人寂し気な小夏の姿が重苦しい。

そんな小夏への向き合い方。今度は間違えないと言わんばかりに、無理やりにでも外に連れ出す小雪先輩。ずっと前からこういう風に、もっといろんなことを話すべきだったのではないかという後悔は遅くない。

これから時間はまだあるのだから。

 

先ほど時間はまだあると書いたが、それは実情に即していない。東京の海洋学部、作中で難しさは書かれていないが、夏休みの夏期講習やら塾やらが押し込まれていく。それに取り組むだけで精いっぱいの時間、受験勉強が始まって、二人で会って話すような時間は取りたくても取れない。

勉強のために水族館部だって卒業したのだ。さぼることは許されない。

そんな長く苦しい受験勉強生活が始まって間もなく、夏休みのはじめの頃に、広瀬さんが動き出す(偶然の産物ではあるが)。彼女はバイトしている時にたまたま小雪の弟・冬樹と母親に会い、なんやかんやでお泊り会をすることになったのだ。

そこに小夏も無理やり誘った。つまり小雪の家族と、広瀬と小夏と、みんなが集まっての思い出作り。高校最後の夏、一生忘れられない夏になってくれればと思う。

 

これまで水表現が何度も作中で登場している。孤独であれば沈んでいくような、遠くに見える水面を見上げるような描写で表現される。第七巻のどん底から上がっていく、暗闇の中にかすかに見えた光などは印象的だ。

そもそも『山椒魚』という作品が、水中の穴の中に閉じ込められて出られない話だ。それにちなんでのことだろう。さて、彼女たちは脱出できたのだろうか。脱出した先にある景色はどのようなものなのか。

その答えは第九巻で描かれていくのだろう。綺麗な第八巻であった。

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