工大生のメモ帳

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異世界薬局1 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

平均寿命を10年上げたい

情報

作者:高山理図

イラスト:keepout

試し読み:異世界薬局 1

ざっくりあらすじ

志半ばで過労死した薬谷完治は、薬師の名家メディシス家の次男・ファルマに転生する。そのことに混乱しつつも、この世界の病に対する知識の遅れ具合と、魔法という存在を受け入れていく。

感想などなど

ゼンメルワイスという医師をご存じだろうか。

彼は1840年代に『手洗いの重要性』を発見した医師である。そもそもそれより前の時代では、手洗いをしてなかったということが驚かれるかもしれない。しかもゼンメルワイスが「手洗いで死亡率が下げられる」という研究成果を発表しても、誰も真面目に取り合わなかったというのだから、より驚きなのではないだろうか。

彼の発表した内容によると、「手を洗わない医師が患者の死亡率を上げる」ということになり、それを受け入れられない医師からのバッシングがあったという流れのようだ。今となっては医師は清潔にすることが当たり前だが、病原菌という存在が発見される前の話と考えると、彼の話に納得できないという周囲の反応も頷ける。

本作の舞台となる世界も、この当時と似通ったレベルだ。

この世界では『病は神の与えた試練』という考えが根本にあり、病を治すための神々への祈祷方法や、病を支配する星の見方がまとめられた書籍があったりする。薬もあるにはあるが、材料に毒物が使われたり、治療の一環で大量に血を流させたりといったように、むしろ命を奪うような知識が一般常識と浸透している。

そんな時代に、現代の医療知識を持った人間が転生してきたらどうなるか?

しかもただの人間ではない。若くして数々の新薬を開発した若き天才・薬谷完治、あまりに働き過ぎて過労死した彼が、若き名門薬師一家の次男・ファルマとして転生したのだ。

しかも。

どんな化合物も生成してしまう魔法を使え、手の指で輪っかを作りそれ越しに相手を覗けば悪くなっている部分が分かる魔法が使え、右手であらゆる物体を生成し左手で消去することができ、さらには無尽蔵な魔力持ちという作品が違えば魔王退治にでも行ってそうなチート能力を授かっている。

転生してきたことで混乱しているようだが、冷静に状況を理解し、この世界の医療レベルを把握したファルマは、何とかしなければならないと動き始める。

 

この世界と前世での大きな違いは、魔法の存在であろう。

それ以外の医療レベルについては、かつて世界が辿ってきた歴史を追体験しているような感じすらあるし、まだ異世界特有の病気などは登場していない。

治癒に必要な薬や方法については、前世での知識がそのまま当てはめられた。

しかもファルマのチート能力の一つ、「あらゆる物質を生成できる」魔法のおかげで、分子式等々を思い浮かべることで現代医療で使うレベルの薬を生成できるのだから、そのチートさが分かって貰えるのではないだろうか。

ファルマの父・ブリュマは、優秀な宮廷薬師として病気の診察の腕は随一と語られている。彼は前世にはない魔法薬で病を診断する方法を独自に開発、書籍に載っていることや常識を鵜呑みにしないといった超絶優秀な医師なのだが、ファルマの持っている知識には及ばない。

ファルマは作中にて、これまで誰も発見することのできなかった病原菌と呼ばれる存在を指摘する。菌という表現ではなく、『虫のようなもの』としてファルマは説明しているが、これから先この指摘により医療が大きく発展していくかどうかは読み進めて確かめていこう。

そんなとんでもない発見をし、数々の不治の病を治していく息子に対し、最初は畏怖していたブリュマも、徐々に彼の功績を称え受け入れていく。医師としても、男としても尊敬に値する父親としての姿を見せつけてくれる。

 

この作品に登場する人物達は、ブリュマを代表としてみんなが良い人だ。

ファルマは薬谷完治という人格が転生してきたことで、大きく性格などが変わってしまった。それでも彼を受け入れ、彼の功績を認め、彼の望みを叶えようと動いてくれる周囲の人々達。その望みに応えようと、粉骨砕身の努力を惜しまないファルマ。

前世で過労死した教訓は忘れない。自身の健康を大事にしつつ、貴族にも平民にも分け隔てなく接し、病気を治していく彼は、きっとこれから先も多くの人に愛される医師になる……と思った矢先、不穏な影をちらつかせて終わった第一巻。

出る杭は打たれるというのは、真理なのかもしれない。導入としてよくまとまった第一巻であった。

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