工大生のメモ帳

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異世界薬局3 感想

【前:第二巻】【第一巻】【次:第四巻

※ネタバレをしないように書いています。

平均寿命を10年上げたい

情報

作者:高山理図

イラスト:keepout

試し読み:異世界薬局 3

ざっくりあらすじ

ペストから街を救ったファルマは、大学の教授として教鞭をふるわないかと誘われる。そんな中、兄のパッレが大学を卒業し帰省してきたのだが、彼は異世界薬局に患者としてやって来て――。

感想などなど

ペストから街を救った英雄は、十一歳くらいの少年だった(中身は大人だけども)。

ペストが最初に確認された村に、空から降り立ち薬を授けたその姿は神のように見えたことだろう。その後、街へと戻りもたらした恵みの雨は、人々をたしかに救い、黒幕だった悪霊を跡形もなく消し去った力は、彼自身がどんなに否定したとしても、紛れもなく神に等しい力と言える。

そんな彼がもたらした英知を大学は認めた。

歴史を見る限り、出る杭は打たれ潰されるものだと思っていたが、この世界の人々は賢さと寛容さを兼ね備えているらしい。ただ認めるだけでなく、彼を大学教授に抜擢し授業させようとするほどだ。

彼は十一歳の少年でありながら、宮廷薬師として働きつつ、平民向けの薬局を運営しつつ、これからは(準備をするため数ヶ月先の話だが)大学で教鞭をふるうことになるのだ。過労死した前世よりもハードなのではなかろうか。

実際、この第三巻での彼はかなり忙しそうだ。

最初に訪れたお客さんは、かなりの機密情報を取り扱う記者で、手書きで作った記事を売って生計を立てていた。しかし文章を書く際に手首を酷使しすぎたことによる腱鞘炎を発症し、記者声明を絶たれようとしていた。

それを救うため薬を処方するだけでなく、印刷機を開発してしまう。そういうことしてるから仕事が増えて、過労死してしまうのではなかろうかという心配をよそに、彼はただ治療するだけでなく、その先の生活を支えるようなことまで幅広く手助けをしてしまうのだ。

腱鞘炎の記者もそうだし、緑内障により視力を失ってしまった画家には、画家としてどうすれば良いかを前世の知識を交えて助言をした。それにより生み出された芸術は、新時代を築くかもしれない。

ファルマの存在は、この街……いや世界の今後に深く関わっていくことになる。

 

ファルマにはパッレという兄がいる。

かなりの美男子で成績も優秀、大学はトップの成績で卒業し、すぐさま宮廷薬師としての職に就き立派な功績を挙げてくれることだろう。これまで何度か帰省してきては、ファルマに魔法の特訓をつけている姿が確認できる。

ちなみに彼は弟ファルマが優秀になって薬局を運営しているということを知らない。画期的な薬をいくつも開発・販売している異世界薬局の存在は知っていた、何度も足を運び経営者は誰なのかを特定しようとしているようだが、何とか知られたくないファルマは避け続けている。

これから大学教授になってしまえば、もしくは異世界薬局で働き続けていればいずれ知られてしまうことになる。その辺りの覚悟を決めようとしていた矢先、想像だにしない事実が発覚する。

パッレは白血病だったのだ。

 

白血病。

超簡単に説明すると、白血球の製造に異常が生じる病だ。その異常により白血球だけでなく、赤血球や血小板の数が通常より減り、怪我をしても血が止まらなくなるといった症状が起きる。

この辺り、作中でかなり細かく解説されている。ここで何も知らない素人であるブログ主が字数を割くべき内容ではない。

当然ながらこの世界の医療レベルでは、この白血病に対抗する手段はない。そもそも白血球の異常だとか、血球の数が少なくなっているだとかを判定する術すらなかったのだ。ファルマの語る白血病の説明を聞いて納得できるパッレは、この世界において上から数えた方が早い優秀な人間だと思われる。

ここからファルマが行う施術は、かなりの困難の連続となる。そもそも白血病は前世でも完治はできず、ある程度症状を緩和させることまでしかできない。その後もこまめな検診や投薬が必要となる。

それでもファルマは兄を助けたい一心で賢明な治療を施す。

その治療を受けるパッレも大した人間だ。闘病しながらファルマの作った教科書を読んで学び、たとえ施術が失敗したとしても、今後の医療の発展のためならば命も惜しくないという覚悟があった。

そんな彼を支える父の姿も立派だった。もしもの時のために備えた血の準備や、自分が人体実験になっても良いという覚悟が、この父にもあったのだ。

多くの人の覚悟に後押しされてのパッレの治療の結果は――。

 

この作品はファルマが優秀なことは言うまでもなく、彼の周囲にいる人々の優しさと優秀さで構成されている。ただ優しいだけではなく、覚悟を決めた全力で後押ししてくれるというのがポイントだ。

知識も賢さもあり、突飛な発想も受け入れてくれるような柔軟さもある。この世界はファルマが思っている以上に急速に発展していくのではないだろうか。不穏な影がちらつくのも、それらも何とかしてくれるだろうという安心感があって、読み進める手は止まらない。

登場人物達が好きになる第三巻であった。

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