工大生のメモ帳

読書感想その他もろもろ

異世界薬局5 感想

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

平均寿命を10年上げたい

情報

作者:高山理図

イラスト:keepout

試し読み:異世界薬局 5

ざっくりあらすじ

ついにファルマの教授としての仕事が始まり、必修単位の講義を請け負うことに。しかし彼のことを良く思う学生だけでなく――。

感想などなど

ついにファルマの大学教授としての仕事が始まった。ただでさえ異世界薬局での仕事が忙しいというのに、大学での仕事が増えるとどうなるというのか……あまり考えたくない。

彼は前世で過労死していて、異世界では健康に気を遣うと言っていたように思うが、自分の読み間違いだったかもしれない。とにかく彼の日常は慌ただしく進み、世界情勢にすら影響を与えていく。

例えば。

大神殿の神官達は、壊れゆく世界を ”鎹の歯車” というもので繋ぎ止めている……そんな設定がぼんやりと第四巻で語られている。その歯車を巻き直すには、人間の地に降臨した神から神力を搾り取る必要があるらしく、そのために歴代の神達は捕らえられ、投獄され死ぬまで神力を搾り取られていた。

そんな歴代の神と比較して、破格であるファルマの神力を手に入れるために一人の女性が差し向けられた。彼女の名はジュリアナ。呪いにより自由をなくした彼女は、ファルマを籠絡し、神力を奪わなければ殺される……そのことに気付いたファルマは、呪いを解除し自由にしただけでなく、彼女に神力を普通に上げてしまう。

神力を与えたのには、「対話さえしてくれれば神力を与えても良いですよ」というメッセージも込めていたのだが、「誰にも解除できないとされていた呪いを普通に解除できていること」が脅威と取られ、「歴代の神達は野蛮で話を聞かなかった」という経験からファルマを捕らえるためにより一層躍起になるように……。

なんとも酷い話だ。この一件も含め、ファルマを手に入れようとする神殿のある神聖国と、ファルマを大事にしたい帝国との溝が深まっていく。どことなく不穏な空気が増していく。

 

長々と語ったが、この第五巻のメインイベントは『大学教授としての仕事始め』である。十代の子供が大学の教授とは、どんな飛び級だと言いたくなる。見た目だけみれば、学生を舐めているとしか思えない所業だ。

ただ彼の持っている現代医学の知識は本物で、この世界の人々からしてみれば遙かに進んでいるということは疑いようがない。そのちぐはぐさが、学生の不信感を煽ったことは否定できない。そのような問題が起こることは容易に想像できたし、実際に問題は発生する。

早速、大学の退学をしたいと言い出す者が現れたのだ。彼の名前はエメリッヒ。例年よりも高い倍率20倍という狭き門をくぐり、大学に入学を果たしたにも関わらず、ファルマを見てから退学を決めた。

そもそも例年よりも倍率が高くのには理由がある。ファルマとパッレが共同で執筆した『ド・メディシスの新・基礎医薬生物学』が名著として認められ、多くの者がファルマの指導を受けたいとして集まったのだ。

そして期待して門戸を叩いてみれば、出てきたのは十二才の少年ときた。失望し、教科書を書いたのは実質パッレと思ったのは無理もない。そして大学でファルマの指導を受けるよりも、退学してパッレの元についたほうがいいと判断したのだろう。

そのような事態をファルマはどのように対処するのか?

意外というべきか、かなりの力業でファルマは自分の実力というものを認めさせた。そして授業が始まってみれば、彼に対して不信感を抱く者もいなくなる。

 

この第五巻では主に遺伝子に関する問題に立ち向かっていく。遺伝子とは細胞の一つ一つにある身体の設計図のようなもので、これを紐解いていけば多くの問題が明らかにされていく。

しかし、この時代の技術ではできることには限りがある。それらを丁寧に解決しつつ、この世界では『呪い』として語り継がれている遺伝子の病に立ち向かっていく。その戦いがとても面白い。

この第五巻だけでかなり医療が進歩していく。平均寿命を10年上がる日も近いかもしれない。

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻
作品リスト