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異世界薬局6 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

平均寿命を10年上げたい

情報

作者:高山理図

イラスト:keepout

試し読み:異世界薬局 6

ざっくりあらすじ

大神殿との因縁に決着をつけるべく、女帝エリザベート二世たちと神聖国へと向かったファルマ。一方、ファルマと女帝がいなくなった帝国では国の存亡を賭けた事件が起ころうとしていた――。

感想などなど

宮廷薬師、帝国一の薬局運営者、薬学の教科書『ド・メディシスの新・基礎医薬生物学』の執筆者、大学教授という一人とは思えない肩書きの数々を持っている人物が、本作の主人公・ファルマである。

彼の帝国における地位は盤石と言って良い。

最初に列挙した肩書きもそうだが、ペストで滅んでもおかしくなかった帝国を救った功績や、生み出した数々の発明品も鑑みると、むしろ受けている報酬が少ないのでは? ちゃんと受け取ってる? と心配になる働きぶりである。

そんな彼の邪魔をしようものなら、最強の神術使い・エリザベートや、東イドン会社のジャン=アラン・ギャバン提督や、ファルマの父が黙っていないだろう。国追い出される程度で済めば良し、おそらく百回くらい死ぬ。

そんなファルマが頭を抱えている最大の懸案事項、それは大神殿とのいざこざである。

ファルマを庇い立てしたとして神術を使えなくした上で投獄された神官サロモン、ファルマから神力を奪うために差し向けられたジュリアナ……あの手この手で薬神であるファルマを手中に収めようとする彼らとの因縁には、いずれ決着をつけなければならないと考えたファルマとエリザベート二世。

二人は家臣を引き連れて、神殿のある神聖国へと向かった。

これが神聖国と帝国、それぞれで巻き起こされる事件の始まりだった。

 

ここで神聖国の主張を整理してみよう。

この世界では数十年おきに守護神が人の姿で降臨する。今回は薬神が、雷に打たれたファルマの肉体に憑依した……ということになっている。彼の持っている神力の強さや、神しか持てないという杖を手に持つことができたり、影がないことから考えても、彼が薬神ということは間違いないだろう。

そんな神を恐れ多くも捕縛して神力を搾り取ろうとした大神殿の神官達。ジュリアナを差し向けてまでして搾り取った神力は、鎹の歯車に注ぎ込んでいるのだという。この鎹の歯車が進み切ると、世界が滅びるらしい。

進みきる前に巻き戻すために神の神力が必要ということだ。

第六巻ではそういった鎹の歯車に関して、『大神官が把握している範囲で』明確に説明してくれる。この辺りがかなりの急展開で面白い。まさかのWifiの登場や、歴代の大神官が辿る運命の話など、どこを切り取っても面白い。

問題となってくるのは、『大神官が把握している範囲で』という点だ。

なにしろこの鎹の歯車、人間には見ることすら叶わない。しかしそこには確かにあって、ファルマにはメビウスの輪のようなものが確かに見えた。それが鎹の歯車であり、これから先、ファルマが挑むべき難敵として立ち塞がることになる。

 

この第六巻はおよそ三部構成となっている。

最初に描かれるのは神聖国に行く前、薬局でのいつも通り騒がしい日常が。大学教授として、薬師としての仕事は順風満帆のようである。そんな彼を気遣って休日を作ってくれたり、妹であるブランシュの進路相談といった心温まるエピソードがある他、献血といった新しい試みを推し進めたりと技術革新も忘れない。

次に描かれるは。先ほども書いたような神聖国との因縁を果たすべく、エリザベート二世と大神殿に足を運ぶエピソードである。神聖国に来て早々、ファルマに毒物を盛るという容赦ない神官達、そんな彼らのトップである大神官の運命を考えると、してもおかしくないような気がしてきた。

さて、そんな神聖国の波乱の一方、残されたエレン達は大量発生した悪霊と戦っていた。悪霊相手では、ファルマの作った薬は効かない。そういった相手に使われるのは、神術医薬によるものだ。

エレン達はファルマに頼れない状況で最善を尽くしてくれた。彼女達の戦いと頑張りに敬意を表したい。大いに持ち上がった第六巻であった。

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